II. 夜

12/22
前へ
/337ページ
次へ
「ん?水沢くん、どうかした?」 水沢の微かな笑い声に反応して、武田先輩が顔を上げる。 俺はそれと同時に後ろで手を組む。 水沢はそんな俺を見て無表情になった。 「や…特に…はい、何も。」 「そう?…あ、自己紹介でもしようか!」 自己紹介? さっきやったよな? 「さっきもやった、って顔してるね?」 先輩がニヤニヤと俺達を見る。 「…正直、はい」 「まぁまぁ、じゃあとりあえず、ほら、ここ座って!」 ガタガタとイスを並べてくれる音が、廊下にまで響き渡る。 「「あ、すみません…」」 「いーのいーの!じゃあ、何から話そうか」 「「「………………………」」」 「だぁよね~!こうなるとは思ってた!大丈夫!じゃあこっちから質問するよ!」 「「は、はぁ…」」 「じゃあ…水沢くんから。水沢くんって、なんか…謎だから…。ピアノ何か弾いてくれない?」 え、ピアノ? …質問じゃないんだ。 「?いえ…僕あんまりクラシックとか知らないので…」 「いやいや!クラシックじゃなくていいよ!…あ、ごめん、ちょっと嫌だった?」 「水沢。この間弾いてた曲なら弾けるんじゃねーの?」 「なになに!藤原くん、聴いたことあるの!?」 「あ、はい…」 思わず、口を挟んでしまったが、水沢は黙ってしまった。 「…悪い、勝手に」 水沢は、下を向いて首を軽く振った。 「あれでいいなら…弾きます」 そう言って顔を上げた水沢は、少し不安そうな顔だった。
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加