II. 夜

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「おぉ~!水沢くん、優しい!」 水沢はふらふらと歩きながら、先輩に少しペコっとしてピアノのイスに座った。 だ、大丈夫か? ていうか、何をそこまで気にしてんだ? 水沢の手が、鍵盤に触れる。 おもりが落ちるように、指先が沈む。 僅かに揺れるさらさらな前髪から見える目は、きらきらと響く音を感じるように閉じていた。 優しく、だけど重厚に響いてくる音に、俺と先輩は息を呑む。 夕陽が差し込む音楽室。 音楽室だけが夜に包まれて、夕陽は月の光のように感じる。 ていうかなんだよこれ…。 綺麗なのに変わりはないけど、前に聴いたのと違うじゃねーか。 基本的には同じだが、全然、違う。 そして、水沢の手がふわっと浮いて静寂に包まれた。 「す、すごいね…!!水沢くん、おれ感動したよ!」 「あ、ありがとう…ございます」 「…なんだよ」 あの曲は? この曲じゃない、あのときの曲はなんだったんだ? 「「えっ…」」 先輩と水沢は明らかに戸惑っている。 こんな空気にしてるのは、申し訳ないとは思ってる。 「水沢。今の曲なんていう曲だ?」 「…え…星が降る」 「…夜、だよな?」 「…やっぱり…違った?」 水沢は、気まずそうに俺を見る。 やっぱりって…どういうことだ? 「…なに、なになに、どういうことかな…?」 先輩も気まずそうだ。 引きつった笑顔で、水沢は先輩を見た。 「先輩、すみません。今の曲、前に弾いた曲じゃなかったです」 「「え…?」」
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