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「おぉ~!水沢くん、優しい!」
水沢はふらふらと歩きながら、先輩に少しペコっとしてピアノのイスに座った。
だ、大丈夫か?
ていうか、何をそこまで気にしてんだ?
水沢の手が、鍵盤に触れる。
おもりが落ちるように、指先が沈む。
僅かに揺れるさらさらな前髪から見える目は、きらきらと響く音を感じるように閉じていた。
優しく、だけど重厚に響いてくる音に、俺と先輩は息を呑む。
夕陽が差し込む音楽室。
音楽室だけが夜に包まれて、夕陽は月の光のように感じる。
ていうかなんだよこれ…。
綺麗なのに変わりはないけど、前に聴いたのと違うじゃねーか。
基本的には同じだが、全然、違う。
そして、水沢の手がふわっと浮いて静寂に包まれた。
「す、すごいね…!!水沢くん、おれ感動したよ!」
「あ、ありがとう…ございます」
「…なんだよ」
あの曲は?
この曲じゃない、あのときの曲はなんだったんだ?
「「えっ…」」
先輩と水沢は明らかに戸惑っている。
こんな空気にしてるのは、申し訳ないとは思ってる。
「水沢。今の曲なんていう曲だ?」
「…え…星が降る」
「…夜、だよな?」
「…やっぱり…違った?」
水沢は、気まずそうに俺を見る。
やっぱりって…どういうことだ?
「…なに、なになに、どういうことかな…?」
先輩も気まずそうだ。
引きつった笑顔で、水沢は先輩を見た。
「先輩、すみません。今の曲、前に弾いた曲じゃなかったです」
「「え…?」」
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