ヘタレ☆無人島漂流記

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「なに妬いてるんだよ。先生は小説で勝負すんだろう?」 「私には売れる作品なんて書けないと思っているんだろう。どうせ三流作家さ」  いちいち面倒臭い男だ。俺は思わず溜め息を零す。  もしめぐるに文才の欠片すらなかったらとっくに見放している。……なんて、少しは期待かけてやっていることも、このおっさんは気付いてねえんだろうなあ。 「サーターアンダギー。特別に明日買って来てやる」めぐるの眉がぴくりと動く。 「いくつだい? 裏切りの代償は高いぞ。一個や二個くらいじゃ動かないんだからなっ」 「十個でどうだ」  一転した表情に思わず大笑いする。最終的には餌で納得したのか、めぐるも大声で笑い出す。 「お父さんうるさい!」  ドスの効いたかのこちゃんの声が立て付けの悪い扉を揺るがした。めぐるの背中がぴんと伸びる。 「月夜半分闇夜半分」 「なんだい、伊藤くん。それは慰めのつもりかい?」 「おら、早く書けよ」いつもより幾分抑えた声で言った。  執筆を始めた、もやしさながらにやつれた背中の向こう側には、サーターアンダギーのごとく丸い月が浮かんでいた。 了
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