望みの潤い

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「はぁ、結局こんな時間になっちゃったか……」 ここ数日、文化祭が近い為、クラスの出し物の準備で追われていた。一応完全下校時間は十時になっている。疲れもあったり、友達と別れ際に話が長くなったりして、家にたどり着く頃には十一時過ぎになってしまう。 文化祭に乗り気でなかった者も、準備が進んでくると楽しみになってくるから、もう授業どころではない。それをわかっていながら、好んで小テストを行う教師もいる。なかなか気を抜けない日々が続く。 それに今年最後だと思うと余計に力が入る。 「風呂入って、早く寝よ。当日眠くなったら嫌だし」 寝静まり始める住宅街に自分の足音だけが響いた。 ――ん? 微かに背後から足音が聞こえる。遠くから近付いてくる靴音……。 咄嗟に振り向いた。街灯がバチバチと点滅し、闇を作る中に人の気配を感じさせた。目には何も映らず、音も聞こえない。目を凝らしてしばらく辺りを見回す。 「こ、こんばんわぁ」 囁くような弱々しい声色でも、夜は意外と遠くまで伝わる感じがする。 誰かいるのなら返事をしてくれ、と願う。――期待通り反応がない。 襲われたらどうしよう。刺されたら痛いよね……。 最近隣町で不審者情報があったことを思い出した。 夜道は好きだったのに、急に怖くなって歩みを早めた。
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