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すると、重なるように靴音が聞こえ、段々大きくなる。
「……っ」
後ろを向く事も出来ず走り出した。――途端腕を掴まれ、驚きの声を上げる。
「わっ、放せっ!」
暴れる身体を、後ろから力強く抱き締められた。
「驚いた? 心配で付いてきちゃった」
身をよじって逃げようとする自分の耳に聞き覚えのある甘く柔らかな囁きが流れ込む。
「びっくりさせるな、馬鹿」
ホッと肩を撫で下ろし、大きな溜息をついた。
「馬鹿呼ばわりは酷いなぁ」
くすくすと笑う声が、耳を擽り身体を痺れさせた。
「早く離れろ。それに家の方向一緒だし」
えぇ、と文句を言いながら、離れることなく頬を擦り寄せてきた。
「照れなくてもいいよ。もう誰も見てないから」
三軒隣の同級生。腐れ縁だかなんだかわからないけど、いつも一緒だった。物心ついた時には、コイツがいない世界が考えられなかった。
「文化祭、楽しみだな」
緩ませた顔を見られなくてよかった。やはり恥ずかしい。
「うん。後夜祭の後も、ね……」
「わかってる」
疼き火照る身体は互いを煽り始めている。最後の文化祭、俺達はきっと耐え抜いて渇ききったすべてを潤すだろう。一生忘れることのない、二人だけの熱い夜にするために……。
今まで倒錯した感情を制御しながら付き合っていた。俺達は、改めて新しい時間を歩もうとしている。
誰がなんと言おうと、俺達は離れない。
大好きだから、いないとダメだから。――愛なんて言葉だけじゃ足りないから。
〈 完 〉
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