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1. アタシの世界
午前0時。場所は新宿。
終電間際の新宿駅の前にはよれよれのスーツを着た社会人が人混みをなしている。一部の人たちは酒に酔ってふらふらと揺れながら人混みをざわつかせている。新宿という街は終電間際でもスクリーンやネオンが煌びやかに輝いていて、真昼のような明るさを保っている。
そんなネオン街を足早に通り過ぎ駅に向かっていくスーツを着た憂鬱の群れ。群れの一部はまた人混みの一部となって駅へと連なっていく。
群れからはぐれた少しの憂鬱たちは、自分自身が人間であることを認めてもらいたいがために、ネオン街の奥へと呑み込まれていく。
そんな街に、あたしは今日もいた。
「今日は誰があたしを捕まえてくれるのかな…?」
大嫌いな家を出て、終電間際の新宿駅のネオン街でそっと煌びやかな服を身に纏う。ほんのり橙色に輝く無数のワイングラスを眺めながら、あたしは小さくつぶやいた。
え?家が嫌いな理由?
…そんなの、親がうるさいからに決まっているじゃない。どの仕事に就けだの、何をして生きていけだの、親の人生じゃないのにどうして指図されなくちゃいけないの?あたしはあんな大人になりたくなかった。自分の尺度でしか他人のことを測れない哀れな大人に。
あたしはあたしの夢を叶えるために廃れきった地元を出て、ネオンのやまない街、ここ新宿に来たの。だけど…ここに来てもう5年。大学を出る前からこの街には来ていたからもう実質7年になるのかな?
あたしの「望み」はまだ当分叶いそうになかった。現実なんてこんなものよね?
あたしが思っていた以上に現実ってどうやら腐っているみたいなの…。
遠くにいる間は綺麗に輝くこの街もいざ入ってみるとただの無機質なジャングルみたい。
ネオンなんて遠くから見るから綺麗なのよ?近くから見たらただの光る電球でしかないの。
言ってなかったけれど…あたしの1番の望みは『理想の王子様に出会うこと』。
だから手っ取り早く男の人にたくさん出会える仕事に就いて、理想の王子様を探してるの。
「ヒナノ、そろそろ開けるわよ!」
「はあい!」
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