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「ああ、ええで」
農夫はふぅと一息ついてから話し始めた。
「いやなあ、何か月か前から峠の頂上らへんに化け物蜂が出だしてなあ。なんでもどぇらい大きうて、子牛くらいあるらしいんじゃ。そいで、峠を通る人間を襲うゆう話じゃ」
奥津は黙って農夫の話を聞き続けた。
「きょうとい(怖い)話じゃろ? ほんでも、何日か前に村ん若いのが退治するゆぅて勇んどったけぇ、もう退治し終わった頃か思ぉて行ってみたが……まだ『化け蜂注意』の立て看板が残っとったけぇ、失敗したんじゃろう」
頭を垂れる農夫だったが、次の奥津の言葉を聞いてバッと顔を上げた。
「話に聞いた通りじゃな。退治しますけぇ、その化け蜂」
「退治する?」
「ええ、じゃけぇ、もう少し詳しゅう話を聞きてぇんじゃけど……」
農夫が眉をひそめて奥津をまじまじと見つめていたその時、
「ほんなら、俺が話聞かしちゃる。詳しゅうな」
と、今度は道の脇からやや舌っ足らずな声が飛んできた。
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