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「流れに住めない、他は住める。それが、異物(インプラント)の特性だよ。土地も、流動性がなければ、異物(インプラント)に似た特性を持つ」
綾瀬に、メモを持たせてみると、細かい文字をびっしり書いてきた。しかも、その字が、かなりのくせ字で、汚い。字の上下まで分からないような、汚さであった。霊だからと諦めずに、今からペン字を習わせた方がいいか、俺は真剣に悩む。
そもそも、何故、声が出ないのだ。
「綾瀬。何故、喋らない?」
神代が、じっと俺の後ろを見ていた。
「エネルギー不足だね。彼は、君に憑いているけど、君からは何も奪えないうえに、触れるのも躊躇している。初恋のもじもじみたいになっている状態」
俺に、憑いている?
「誰が、俺に憑いていいと言った……」
メモがパラパラと振ってきた。
『他にいない』『愛している』『親友』
他にいないと、愛しているは、相反する。他にいないは、選べないからであって、愛しているというのは唯一を選んだということであろう。
「まあいい。綾瀬、蒸発させる程のエネルギーの持ち主に憑かれるというのは、綾瀬と逆だよね」
憑き主からエネルギーを貰うのではなく、憑き主にエネルギーを与えるので、神なのか。だいたいの条件は分かった。
「土地の異物(インプラント)を外したいのですよ。その方法が知りたいのです」
神代が、やっと真剣な表情になり、昂の用意していた資料を読んだ。
「まあ、合っているね。綾瀬君の言うとおりだ。俺は、支配下に置くという、能力の持ち主で、森を守っている。その公園も、支配下に置けばいいだけだ」
「お断りします。俺は、異物(インプラント)を外したいだけです」
支配下とは嫌な言葉だ。そんなもので縛られた土地で、子供を遊ばせたくない。
「……うん。はっきり断るね。それでは、支払い用の異物(インプラント)を見せて」
俺は、断ったはずだが、異物(インプラント)をテーブルに並べてみた。
小さな金属片ばかりで、俺には、価値も意味もない。丼池の家から持ってきた、犬小屋も車から降ろすと、テーブルの下に置いた。
この犬小屋、きのこの形を真似ていて、森によく似合う。前の犬のお気に入りで、何となく異物(インプラント)に思える。前の犬が必死で守ったものが、犬小屋に溶けているように思えた。
「……その犬小屋は、異物(インプラント)ではないよね?」
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