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遥香が、話が怖かったのか泣き出したので、俺は慌てて、ジューズを出した。
「遊部君、分かってないのね。私は、怖くて泣いていません。悲しいのです」
遥香の方が、俺よりもしっかりしている。
「公園で遊ぶアケミちゃんは、いつも、ブランコに乗って待っています。アケミちゃんは、防空壕に入ったお母さんが出てくるのを待っているといいます」
今度は、遥香の話で、母親の方が泣き出した。
「そうなのです、ブランコに黒いモヤモヤのようなものが、よく浮かんでいて……」
そのモヤモヤが、道路に行くと事故になり、子供に向かうと、その子供は病気になった。遥香の母親は、モヤモヤが怖くてたまらずに公園を避けようとした。しかし、遥香が、公園に行かないと、アケミちゃんが家に来るよと言ったのだ。そこで、生葬社に相談に来ていた。
「生葬社は、原因不明の事柄に対する相談所ですか……」
俺は納得しかけて、水早に首を振られた。
「分かってないね、遊部君」
同時に遥香も首を振っている。五百歳も四歳も同意見で、俺が分かっていないと言うのか。
そこに、生葬社のアルバイト、丼池 昂(どぶいけ すばる)が顔を出した。すると、遥香の顔に、明るさが増した。
「お兄ちゃん、かっこいい!」
昂は、にっこりと笑うと、俺の隣に座った。
「こっちのお兄ちゃんも、相当、かっこいいでしょ?どうして遥香ちゃんは、避けているのかな?」
生葬社の接客スペースは、そう広くはない。遥香の母親も、俺と昂を見比べていた。俺は、あまり比較されたくはないが、ほぼ日本人には見えない。
「だって、遊部君には後ろに彼氏がついているよ」
俺の後ろに彼氏?遥香は何を見ているのだろうか。俺は、後ろを見てから、遥香の目を見てみた。遥香は、確かに何かを見ている。
「……綾瀬か?」
遥香の目を覗き込むと、確かに俺の後ろで、俺を抱えて座っている綾瀬がいた。子供には、綾瀬が見えているのか。しかし、俺も、綾瀬が近くにいるとは知らなかった。
「こいつは彼氏ではなくて、俺の幼馴染で、五年前に事故死している。今は、俺の守護をしようとしているらしい」
「死んでいるの?」
遥香が、綾瀬と握手していた。
「そう」
俺が頷くと、遥香の母親の顔が真っ青になった。
「きゃああああ」
そして、遥香の母親は気を失った。
「綾瀬、どうやって、ここまで来たの?」
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