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綾瀬は言葉が出なかった。そこで、白い紙を出すと、汚い字が綴られていた。
『電車に乗って来た。実徳(みのり)が住所と行き方を書いてくれた』
実徳は、俺の弟であった。
「帰ってください」
確かに幼馴染で親友でもあったが、もう問題は増やしたくない。
『守護霊でもいい、一緒にいたい』
「断る!」
俺がきっぱり言うと、綾瀬が悲しい顔をしていた。遥香は、同調が激しいらしく、綾瀬の代わりに泣いていた。
「いいか、生きている人間は、食べて生命を維持しているわけよ。その中でも、自分というものの維持には、かなりのエネルギーを消費している。お前は、そのエネルギーをどこから得ている?」
文字が浮かんでいた。
『周囲の人間から、ちょっとずつ貰っている』
それが困るのだ。人間、結構、自分一人で限界に出来ている。余計なエネルギーは、誰も持っていないのだ。
「家に帰ってください」
『愛している、遊部。絶対にお前からは採取しない。だから、傍にいたい』
俺から取らなければいいという問題ではない。俺の周囲の人間が、綾瀬のせいで弱ってしまう。
「体がないとな、安定もしない」
そうか、だから鹿敷(かしき)は特殊能力として、肉体を乗り換えている。決して、霊体?のままではいない。
「まさかと思いますが、水早さん。この綾瀬も肉体を得ると、鹿敷さんのように生きられるのですか?」
「ううむ、鹿敷君も前例のなかったタイプだからね。どうかな?それに、綾瀬君は死亡届が出ているでしょう?」
死亡届は出ている。それは、夢で過去を操る、生葬社のオーナーの儀場(ぎば)がどうにかしてしまいそうだ。
「綾瀬?」
ふと、綾瀬の気配が消えた。
「遥香ちゃん、公園に居たのも、綾瀬みたいな人でしたか?」
遥香は首を振っていた。
「アケミちゃんは、中まで暗いの。暗くて冷たいけど、すごく優しい。綾瀬君は、温かくて光っているでしょ、違うよね」
綾瀬は、まだ生き霊であるのか。
俺は、生葬社にいるが、霊の類は見えないし信じてもいない。
アケミという少女の異物(インプラント)が、公園にあるということだけだろう。
「遊部君もかっこいいよ。王子様みたいよね。でも、私の好みは昂君!」
遥香は、真っ赤になって昂を見ていた。
「遊部君、公園に行ってみてね。俺は、彼女達を家に送ってから、儀場の所に行ってくる」
やはり、俺が公園に行くのか。
「はい」
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