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俺は、異物(インプラント)は全て生葬社に渡してしまうので手持ちはない。
昂がカツカレーを持ったまま、歩いてテーブルに近付いてきた。
「船生さん、俺、欲しいものがあるのですよ。それと交換で、手土産、入手しますよ」
昂の欲しいものは、何なのか。昂は、自分が描いた図面を、物にして欲しいという。
「これは、何?」
箱の中に、スピーカーが入ったようなものであった。
「霊界との通信機ですよ」
胡散臭い。しかし、船生はまじまじと見ていた。
「造りは簡単だね。俺が、作るよ」
通販には、電気の組み立てキットが多くあり、その試作品が会社にゴロゴロしているという。それを使えば、特殊な部品はないので製作できるらしい。
「昂、霊界と通信するの?」
「いいえ、犬と話そうかと思いまして」
真面目に、犬を理解しようとしているのか。そもそも、犬が人間と同じ言語体系を持っているとは限らない。
霊界と通信も、犬と会話も、昂にとっては同類であった。
「電車で盲導犬と会いまして。周囲の喧騒にじっとしているのが、可哀想で」
いつ電車に乗ったのだ。俺は、あまり電車に乗っていない。車での移動が多い。
でも、昂が犬好きというのは知っていた。いつも、庭で犬を躾している。
「よし、手土産を頼む!」
船生と俺達の会話が終わる頃、やっと正面の男が口を開いた。
「通販で花を供えたいという要望があります。葬儀にではなく、路上とか現場に配達したいそうです」
それは、どうなのであろうか。
「無理かなあ、それはね、受取人のいない路上に配達は許可されないね」
船生が、アドバイスすると、写真が出ていた。病院で入院中で外に出られず、悲しい事件に心を痛め、花を供えたいとあった。
「身内に頼めないのか……」
家族には、いつも迷惑をかけているので、我儘で振り回せないとある。
それぞれの家族には、それぞれの事情がある。良し悪しは、誰にも分からない。
「通販って、色々な要望が寄せられるのですね……」
「ただの会社員で、何もできないのだけどね。何かしたいと思ってしまうよね」
黙って端末を睨んでいても、あれこれ思いはあるのか。
俺が、コーヒーのお代わりを注ぐと、真っ赤になって照れていた。
「男女含めて、こんな美形に相手にされるなんてないよね、磯田君」
「……はい」
美女に相手にされるのならば照れるが、俺では役にも立たない。
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