『森啼いて鳥死する時』

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「よし、ここにイベントのチケットがある。かなり入手困難。で、二人で行っていいよ」  どうしてそうなるのか。 「いいのですか?」 「いいよ。磯田君は、人との接触が必要。他が優秀だからね。欠点が目立つ」  上司としてのアドバイスと、船生は付け足していた。 「そこで、イベントに行き、新製品のリサーチと、遊部君とデートね」  俺とデートは、罰ゲームか何かか? 第七章 森啼いて鳥死する時  どうして船生は、俺に磯田とイベントに行けと勧めたのか。  ダダをこねる昂を説得し、待ち合わせの場所に行ってみると、磯田は既に来ていた。  やや小太りの磯田は、黒ぶちの眼鏡をして、俯いていた。カメラを持ち、オタクという感じがしている。  駅前であったが、誰も、磯田を見る者はいなかった。没個性でありすぎる。  駅前だというのに、カラスが一斉に鳴き、磯田が空を見るとピタリと止まった。磯田の目は、闇を払っているのではないのか。  正面に立って、磯田を見ると、磯田が真っ赤になっていた。 「都会には、カラスとスズメしかいませんよね。両者、雑食です」  払っているのではない、磯田の目が純粋過ぎて、闇が視界に存在できないのだ。こんな、面白い能力を持った者もいるのか。  人間の子供に似ている。 「行きましょう」  電車に乗ると、磯田が周囲をきょろきょろと見回す。席を見つけると、俺を座らせていた。  まるで誰にも見せたくないというように、俺の前に磯田が立つ。 「磯田さん、俺、体力ありますよ。席、代わりましょうか?」 「い、いいえ、俺、立ちます」  磯田は、人込みが得意ではないという。通信販売で人に会わず、それで余計に苦手になっているらしい。磯田は、俺も人との接触に問題があると聞き、こうやって電車でも庇ってくれようとする。磯田は、優しい人間なのかもしれない。 「今日のイベントは、車の発表と歌とトークショーです」  新車のお披露目で、会社が招待されたものであった。軽食であろうが、食事も出る。 「通販では売れないので、気軽に行けと、船生さんは言いました」  船生ならば、通販で車も売れそうであった。 「俺も車は欲しいけど、まだ貯蓄がなくて。でも、高い代物って、現物で確認したいですよね」  感覚で、これがいいと決めたい。 「そうですね、空間の認識が、画面ではできない。旅行も現場で分かる事が多いのと、一緒でしょうか」
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