『森啼いて鳥死する時』

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 でも、気になる点はある。 「昂も行くか?」  昂は、最近、杖なしになった。一年、眠ったままの昂であったが、何故か俺が近くにいると起きていられる。それは、昂が通過者であり、俺自体が異物(インプラント)であることに関係しているのかもしれない。  通過者は、生まれながらに、記憶を保持している異物(インプラント)を持っている。それを奪われると、自我を失ってしまう。強力な異物(インプラント)も存在し、そこに吸収され眠ったままであった昂に、新しい異物(インプラント)を造り、与えてしまったのは俺であった。  俺は通過者ではなく、俺自体が異界の存在であるらしい。この誰にも似ていない姿も、変な能力もきっと異界のモノゆえのものであった。  異物(インプラント)は、回収し異界の研究材料になっている。生葬社は、その異物(インプラント)の回収に携わっている。 「遊部さん、俺は、遊部さんがいないと、眠ったままですよ」  昂も来るということか。 「では、行きますか」  アケミという少女がいる公園は、周囲を住宅街に囲まれた一角にあった。結構広いもので、敷地内で野球もできそうだった。しかし、公園内では、球技が危険という理由で禁止されていた。  公園には緑も多く、芝生もあって、そこでお弁当を食べる人もいる。  ブランコを見つけると、ロープが張られ、危険と書かれた札が下げられていた。  見回すと、公園の遊具は、昔と比べると、かなり減ってきていた。その内、遊具は、何もなくなるのかもしれない。  公園のベンチに座ると、周囲の家族を観察してみた。  幼い子供が遊ぶ傍らで、親が見守っている。  俺のように、昼間にスーツ姿でベンチに座るなど、どこか浮いてしまっていた。昴は、アルバイトで普段着であるが、それでも、やはり浮いている。 「俺、体操部でしたからね」  昂が鉄棒で、くるくると回ってみせた。  昂を見ていた俺の隣に、ベンチに座るように揺れる小さな足が見えた。  ベンチの周囲には、くろいモヤモヤが渦を巻き漂っていた。それは、小さな意志を持ち、帰りたいと呟いていた。 『待っているの。ここで、お母さんとお父さんが待っていなさいねと言ったの』   アケミであるのか。言葉から、世界が見えていた。  警報の中、アケミは学校の便所に入った。待っていようとした、母親は腕にアケミの弟を抱え、背にアケミの妹を背負っていた。
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