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「遊部さんですよ……いつ契約していたのですか。青い瞳の彼みたいに言われていますよ」
運転しているので、画面は確認できない。
「いや、モデルが霞む。しかも、遊部さんの、この笑顔を向けられたい。車が疑似人間になると遊部さんのイメージみたいです……で、青い瞳の彼のくだりが」
どんな映像であるのか、車を止めて確認したい。
「……綾瀬さんの暴走のきっかけでしょう。遊部さんが笑顔を向けているのは、自分ではないということ」
冷静に昂が分析していた。
「まさか、磯田さんが危険なのか?」
「笑顔の先は、磯田さんですか?それ、まずいですね」
昂は、船生に連絡していた。
「しかし、画面の遊部さん、もう人間の域ではないですね。むしろ、神?輝いて美しくて、潔癖」
どんな人間であるのか。映像というのは、人を誤って伝えるものらしい。実際の俺は、情けなくて、女々しい。
やっと神代の家に到着すると、百舌鳥の車も、丼池の車も到着していた。俺は、車から降りると、ご神木を確認しに行く。
しいたけのハウスの裏山を、走って登る。ご神木があった場所には、大きな穴が開いていた。そこに雨水が溜まり、濁っている。
「どうやって」
まるで雑草でも抜くように、ご神木を抜いて持って行ったのか。周囲に車の轍はなく、又、大型車で来られる場所でもない。
「喰ったのだね」
綾瀬がご神木を喰ったのか。よく見ると、地面に指の後が残っていた。根を引き抜きながら、喰ったのか。
「そんな……」
森が啼いていた。主であったのか、それとも友であったのか、失われたものへの哀しみに森が啼き、山が啼いている。この慟哭に、動物も反応していた。あちこちから、遠吠えが聞こえてくる。
「ご神木が無くなったら、御幸さんは、子供はどうなるのですか……」
百舌鳥が首を振っていた。莫大なエネルギーも、この場所から消えていた。
「……そんな……」
涙が頬を伝い、地面に落ちる。
「泣くな……」
どこかで聞いた声であった。これは、カラスを殺して喋る、山の者であった。
「師井さん、鞍馬さん」
どうして、ここに居るのだろうか。
俺が走り寄ると、師井が両手を広げて俺を掲げる。俺は、まるで子供のように、師井の腕に納まっていた。
「又、泣いていたのか、遊部君……君は他者のために泣き過ぎる」
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