『森啼いて鳥死する時』

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 師井の声が、耳に優しい。俺が、師井の肩に顔を埋めると、俺の頭に師井の頭がのしかかった。師井の頭が、又、揺れていた。 「ここのご神木には世話になったからね」  師井が、俺を地面に降ろすと、じっと目を見る。 「さよなら」  師井は、首のマフラーを外すと、水溜まりに入った。 「俺達は、元々、捧げられた者だ。役に立てて嬉しいよ」  鞍馬も水溜まりに入ると、二人の姿が根のように見えた。 「一緒に飲めて嬉しかった。時々、ここにも酒を捧げて欲しい」  少年が、師井の背に飛び乗ると、そこには若い木が一本存在していた。 「ご神木……」  森が震え、森が響く。ご神木の誕生に、夜まで振動していた。これは、歓喜であるのか。 「師井さん、鞍馬さん……少年?」  少年の名前を知らなかった。  人間の姿が消え、若木は急速に成長していった。あっと言う間に、俺が見上げる程の木になり、それから葉を茂らせてから落としてゆく。  俺が見ている前で、三人は、元のご神木に負けない程の巨木になった。  これで良かったのか?この終わりで良かったのか?俺は、疑問を言葉にできなかった。  再び涙がこぼれる、今度は丼池が俺を支えていた。 「遊部さんを放っておくと、一緒にここで木になりそうですよ……」 「さっきの人達は、俺を誘拐した人で、すごく優しかった」  体の一部を失っていて、生きているのが不思議であった。でも、必死で生きていた。 「……はい」  この悲しみは森のものなのか。顔を失い言葉のない少年、内臓を失い食べる事ができない鞍馬、首を切られて、頭と心が絶ち切られた師井、森の言葉は体験から得られる。森は、でも、最後に人と生きてゆくことを選んでくれた。 「……ご神木」  ここで、長く人を見守るのか。日本酒ならば、持ってくる。又、酒盛りしてくれるのか。 「前のご神木は、貴方が最後を運ぶ人だと分かっていたので、拒絶したのですね」  神代が、新しいご神木に挨拶していた。 「すいませんでした」 「いいや、何事にも終わりはある。そして、貴方は始まりもくれた」  御幸は息絶えてしまったという、しかし、子供は目を覚まし、もう走り回っていた。 「子供は俺が育てます」  でもと、神代は泣いていた。俺も、泣けてくる。 「綾瀬は、そこまでして実体を持ちたかったのですね」  俺は、綾瀬を分かっていなかった。 「そうだね」
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