『森啼いて鳥死する時』

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 俺が悪かった。綾瀬を、安らかに死なせてあげれば良かった。  神代の傷は深い。    後日、船生は全く気にしていないのか、神代のしいたけを取り扱いすることに成功した。  そこには、磯田の熱意もあった。しかも、磯田は、週末は必ず神代の手伝いをしいているという。子供も懐いていて、もう一人のパパと呼ばれていた。 「そういう仲のようだよ」  喫茶店鮫島で、船生が深い溜息をついていた。そういう仲とは、どのようなものであろうか。  コーヒーを淹れて出してみると、船生は、又ため息をついた。 「……神代さん、活き活きとしてきたよ。磯田に愛されているからね」  そういう関係ということか。でも、よく神代が受け入れたものだ。 第八章 さよならと言うために  弟の実徳から、昂にあれこれ連絡が来ていた。まず、家の裏にあった岩が、粉砕されていたという。  粉々の状態で、何が起きたのか分からないが、朝方に爆音がして両親と原因を捜したところ、岩の粉砕が見つかったそうだ。  他に、俺のメダルが消えていた。  綾瀬のせいと決めつけたいが、ただの偶然なのかもしれない。  昂は半日、意識を保てるようになり、大学に復学した。ゆっくりと、元の生活に戻っている。  俺は、相棒の昂が半日しかいなくなってしまったが、その代わりに、丼池が任務を終らせて帰ってきたので、相棒になるという。 「俺も、大学があるので、完全な相棒になるまで、もう少し待っていてくださいね」  生葬社には、丼池の机もある。丼池は、かなり無口であるが、女性に人気で、いつもきちんと整理され丁寧に女性が机を拭いている。俺の机など無視され、日々、自分で拭いていた。 「遊部君、神代さんの様子を見てきて。ついでに、しいたけを購入してきてね」  百舌鳥の奥さん、かおりは神代のしいたけのファンであった。  百舌鳥は、結婚式は後回しにして、かおりと籍はいれたらしい。なかなか言ってくれないが、女性達がお祝いをあげていた。俺も、お祝いをあげたいのだが、何を購入してよいのか、さっぱり分からない。  百舌鳥に聞くと、俺からのお祝いはいらない、もう沢山貰ったからねと言う。俺は、何もあげていない。  丼池の車で、神代の家に行くと、子供は学校に行っていた。 「学校、行けるようになったのですね」 「ああ、影響もなくなってね。森から自由になった」
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