『森啼いて鳥死する時』

56/59
前へ
/59ページ
次へ
 快く百舌鳥は有給をくれた。しかし、電車で行くにしては、故郷が遠い。レンタカーを借りようとしていると、丼池家が空いている車を条件付きで貸すと言ってきた。 「その、条件って何でしょうか?」 「私も行きます!」  美奈代が、付いてゆくと言ってきかない。 「……」  やはり、レンタカーにしよう。俺が、電話帳で予約をしようとしていると、丼池池で比較的静かな父親も主張してきた。 「大事な息子を預かっているのだから、挨拶をしたい」  俺は、大事にされてはいない。その現実を、この二人には知られたくない。 「もう、遊部君の実家の許可は取った!」  いつの間に連絡していたのだ。俺が、昂を睨むと、昂は逃げるように部屋に戻った。  恐る恐る実家に電話を掛けてみると、美奈代からは、頻繁に連絡を受けていたという。俺が怪我をした、誘拐されたなど、母親同士で一緒に悩み相談し合っていたらしい。 「貴方のお母さんね、気付いていたのよ。貴方が、普通の子供ではないってね」  自分の子供なのに、誰かから預かった大切な子供のような気がしていたという。でも、大切にしたいのに、どこかが間違った。 「遠慮し合っては、ぶつかれないでしょ」  昔の丼池家は、皆が遠慮し合って他人よりも分からなかったという。それが、昂が目覚めなくなり、俺がやってきて、家族になっていった。 「遊部君は、かぐや姫みたいだったって言っていたわよ。いつか誰かが自分の子供ですと言って引き取りに来て、行ってしまいそうだった」  そんな話は聞いたことがなかった。  妙に説得されてしまって、結局、丼池家が全員で俺の実家にやって来ることになった。 「うわあ、田舎、すごい!」  田舎の何が凄いのであろうか。細い道なので、俺が運転しているが、後方がやたら賑やかであった。 「ドブなの?小川なの?水が綺麗!」  何を見ても感動するらしい。しかも、ドブではない、用水路であった。 「雑草!!!!すごい、のどかでかっこいい」  もうコメントできない。雑草ですら、かっこいいものなのか。 「この先です……」  本当に田舎であった。店など何もない。 「どこで、食料とか服とか購入していたの?」  車もあるし、どうにかはなると思うが、住んでいる時は不便だなどと思いもしなかった。今、商店街が近くにあって、欲しい物を考えずに買えるようになって、田舎は不便だったと分かる。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加