『森啼いて鳥死する時』

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「アケミ、先に行っているから。必ず来なさい」  母親が、アケミを残して去ってゆく。しかし、入ろうとした防空壕は空襲で無くなっていた。  アケミは、どこに行ったらいいのか分からない。  必ず来なさいと言われたのに、行けなかった後悔の思いが、ここで待つと変わってしまったらしい。 「……待っていなさいではないよね?来なさいであったでしょう」  アケミは生きて、家族を持ち、そして老いていった。ここで、亡くなった子供ではなかったが、ここで家族を失ってしまった子供であった。 「行ってもいいの?」  今度は、耳で聞こえた。 「お母さんのところに、行ってもいいよ」  アケミの笑顔が、光になった。黒いモヤモヤも、光についていって欲しい。  この言葉から世界を見る能力も、当たり前のように俺にあった。  楽しそうに鉄棒をする昂を見ながら、又、隣を見ると、学生服の足があった。  やはり、綾瀬は成仏できていないのか。そもそも、成仏という概念が俺には分からないが、肉体を失っても、消えられない人は存在していた。  綾瀬の手が、紙をくれと催促してくる。俺が、内ポケットから紙を出すと、文字が浮かんでいた。 『終わっていないよ』  どういう意味であるのだ。横を見たが、誰もいなかった。  この公園は、かつて学校であった。しかし、学校は移転され、今は公園になった。  何故、移転したのだ。よく見ると、あちこちに影が遊んでいた。ここで、遊ぶ影は一つではなかったのだ。  しかも、影の大きさが、大小さまざまであった。皆、子犬のように転がって、遊んでいるように見える。  いいや、これは遊んでいるのではない。火に焼かれて、転がっているのか。俺の目に見えるというのは、どういうことなのだ。  俺の手からメモが奪われると、ベンチの上に飛んだ。メモに文字が浮かんでいた。 『俺が見えているものを、遊部に送った』  綾瀬が見ているのか。  苦しんでいる姿を見ていたくはない。公園を歩いてみると、あちこちに異物(インプラント)が落ちていた。それを、一つずつ丁寧に拾ってみた。  又、多く拾ってしまい、異物(インプラント)の暴落で、回収屋に恨まれてしまう。でも、この悲しさを放っておけない。  昂が走ってくると、俺の手の中の異物(インプラント)を見つめた。
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