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何の穴場なのだと、昂が付いてくる。俺は、野菜畑の真ん中に立った。
「実徳、ここ、今も家の畑か?」
「そうだよ。晩飯の野菜でも採る?」
いいや、ここで野菜を食べるのだ。
「ほら、食べ頃」
畑の隅に井戸があり、今も現役であった。その井戸で野菜を洗い、食べるのだ。
「どう?」
「おいしいです」
ここで食べる野菜が、一番おいしい。
「綾瀬の仏壇に、さよならを言ってきたよ。本当は、五年前に言わなければいけなかったよね」
夕日が大きい。この夕日の中で、家に帰る時は、いつも寂しかった。
「……又、泣いていましたよね」
でも、今は帰る家がある。
「まあね。本当は、五年前に泣いておくべきだったよね。当時は、強がっていた」
カラスも鳴いているが、これは、帰るという合図だ。
「さよなら、綾瀬」
俺はもう家に帰るよ。
『森啼いて鳥死する時』了
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