『森啼いて鳥死する時』

9/59
前へ
/59ページ
次へ
 広い庭を持つ家の後ろには、シイタケ栽培のハウスが並んでいた。敷地が広いので、どこを探していいのか、さっぱり分からない。昂が予約を入れたというが、どこにも、怪しげな雰囲気もなかった。至って普通の、しいたけ農場であった。 「すいません」  後ろのハウスに声を掛けると、原木が大量に積まれていた。その木の陰から、人が飛びだしてくると、俺の前に立った。 「すごい!こんな異物(インプラント)があるのか。君、生きているよね?これ、貰っていいの?何の仕事かな」  俺の両肩を持ち、バシバシ叩く。 「俺が依頼者です。俺は、差し上げられません」  ええと、明らかに神代はがっかりすると、頭を掻きながら母屋へと案内してくれた。 「生きた有機体の異物(インプラント)は初めて見たよ。君、最後の異物(インプラント)という噂のある子だよね」  土間を入ると、神代が長靴を脱ぎ、サンダルになった。土間のテーブルには、花が飾られていて、土間の奥から、エプロンをした可愛い女性が出てきた。 「兄さん、お客さんですか?」  妹なのか。長靴にエプロンであるが、かなり可愛い。 「ああ、あっちの仕事の人ね。御幸(みゆき)は仕事をしていていいよ」  できる事ならば、兄のほうではなく、御幸が神のほうがいい。 「ママ!」  御幸の後ろに、小さな子供が二人付いてきていた。御幸は、子持ちであったのか。どこか失恋でもした気分になった。 「御幸は生贄の娘でね。俺は、大反対して、御幸に駆け落ちさせた。その、結果が今に至る」  神代の家は、代々、自分の娘を生贄に捧げて、神を得ていたという。 「御幸の相手は、蒸発した。行方不明とかではないよ、俺達の目の前で、霧状になって消えていった。俺は、神になって、御幸はこの森から出られない」  だから、森を守る会を立ち上げて、なるべく広い面積を確保しようとしていたのか。 「で、相談事というのは、成仏できない霊とかかな?」  神代の顔が、うんざりとしていた。こういう案件は多いのだろう。 「俺の後ろにいるのは、これは、これでしょうがないので放っておいてですが……土地が異物(インプラント)の能力を得るということはありますか?」  神代が、俺の後ろを見てから、本当にこのままでいいの?と目で訴えてくる。綾瀬は、一体何をしているのか。俺には、見えていないので、何とも言えない。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加