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広い庭を持つ家の後ろには、シイタケ栽培のハウスが並んでいた。敷地が広いので、どこを探していいのか、さっぱり分からない。昂が予約を入れたというが、どこにも、怪しげな雰囲気もなかった。至って普通の、しいたけ農場であった。
「すいません」
後ろのハウスに声を掛けると、原木が大量に積まれていた。その木の陰から、人が飛びだしてくると、俺の前に立った。
「すごい!こんな異物(インプラント)があるのか。君、生きているよね?これ、貰っていいの?何の仕事かな」
俺の両肩を持ち、バシバシ叩く。
「俺が依頼者です。俺は、差し上げられません」
ええと、明らかに神代はがっかりすると、頭を掻きながら母屋へと案内してくれた。
「生きた有機体の異物(インプラント)は初めて見たよ。君、最後の異物(インプラント)という噂のある子だよね」
土間を入ると、神代が長靴を脱ぎ、サンダルになった。土間のテーブルには、花が飾られていて、土間の奥から、エプロンをした可愛い女性が出てきた。
「兄さん、お客さんですか?」
妹なのか。長靴にエプロンであるが、かなり可愛い。
「ああ、あっちの仕事の人ね。御幸(みゆき)は仕事をしていていいよ」
できる事ならば、兄のほうではなく、御幸が神のほうがいい。
「ママ!」
御幸の後ろに、小さな子供が二人付いてきていた。御幸は、子持ちであったのか。どこか失恋でもした気分になった。
「御幸は生贄の娘でね。俺は、大反対して、御幸に駆け落ちさせた。その、結果が今に至る」
神代の家は、代々、自分の娘を生贄に捧げて、神を得ていたという。
「御幸の相手は、蒸発した。行方不明とかではないよ、俺達の目の前で、霧状になって消えていった。俺は、神になって、御幸はこの森から出られない」
だから、森を守る会を立ち上げて、なるべく広い面積を確保しようとしていたのか。
「で、相談事というのは、成仏できない霊とかかな?」
神代の顔が、うんざりとしていた。こういう案件は多いのだろう。
「俺の後ろにいるのは、これは、これでしょうがないので放っておいてですが……土地が異物(インプラント)の能力を得るということはありますか?」
神代が、俺の後ろを見てから、本当にこのままでいいの?と目で訴えてくる。綾瀬は、一体何をしているのか。俺には、見えていないので、何とも言えない。
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