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外見だけで人を判断するのはよくないですよ。そう昔から言われていた。それでも目の前に現れた美青年に心を奪われてしまうのはきっと本能的なものなんだろうと、私は自分に言い訳をした。
その後、私はその首を吊った女をなんとか供養できないかと花とお線香を置いた。その頃にはすでに彼の姿はなく、名前くらいは聞いておけば良かったかなと思った。
それでも何度も繰り返し女の供養に行くと彼に出くわすことは多くなった。彼は自分の名前を三木(みつき)と名乗った。
「こういう経験はよくあるんですか?」と彼に言われて、心霊体験など初めてだったことに数日経ってから思い出した。そう言えば幽霊なんて見たことなんてなかった。そう彼に言うと彼は笑った。
「本当に目の前の首を吊っている女性は幽霊なのでしょうか?」
「でも、三木さんにも見えているんですよね」
「確かに視界では確認しています。ただ私が言いたいのはこの世の見えない存在というのは果たして外部に存在しているものなのでしょうか」
私は彼の言っていることが今ひとつ理解できなかった。「それは……」と言いかけてなんと言えばいいか悩んでしまう。言葉が宙を舞ってどこかに飛んでいってしまった。
「所謂、幻覚というのは自分の心の中から生まれるものですよね。だってそこにいて誰でも見られるならそれは幻覚ではなく実体なのですから」
「確かに、そうですけど。でも、私も貴方も見てますよね。それなら幻覚とは言えないんじゃないですか?」
うう……と肯定するように首を吊った女の幽霊も呻いた。
「それすらも幻覚かもしれません。私の持論ではこの世の中の全ては自分が生み出した幻想なんです。それが神仏であったとしても、歴史であったとしても自分が生み出したものにほかならない」
彼は自信があるように再度そう言った。私としては私がいなくても世界はある訳だし、勿論、私が生まれる前にも世界があったのだから、彼の言ってる言葉には賛同できなかった。
いや、普通は賛同できないだろう。そんな傲慢な考え方。それでも、なんとなく私は何故、彼がそんなことを思っているのか知りたかった。彼がイケメンだからとかそういう訳ではなく、同じ幽霊を見ているのにそれを否定する。というのがどうしても不思議で仕方が無かった。
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