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女性の幽霊がぶら下がっている桜の木下でベンチに座りながら女性を二人で見ている。他の人から見れば7月の場違いな花見をしているような、そんな光景に映るだろうか。
「それなら、三木さんが死んでしまったら全て消えてしまうんですか?」
「いいえ、消えませんよ。この世界は、全員の幻覚が生み出しているものですから」
「それなら、あそこでぶら下がっている幽霊は私たちが存在しているうちは消えることができないのでしょうか」
「さぁ……。それはあなた次第かもしれません。貴方が成仏したと納得できれば彼女は供養という幻想をもって昇華されるかもしれません」
「それなら、もう成仏してくれてもいいのに」
そう私は独り言のようにポツリと言った。それくらいに首を吊ったその姿は幽霊であっても痛ましく、可哀想に思えたからだ。でも、彼女が消えてしまったら彼と話すことはなくなるし、私も彼もこの公園に来ることはなくなるのかもしれない。ふと、そう思うとなんとも言えない気分になった。
「優しいんですね」
そう彼は言った。
「違います。当たり前の事です。苦しんでいる人には助かってほしいですから」
と私は彼に言った。
そう、そうだ。私は昔から自分より周りを優先させてきた。周りの幸せそうな顔や楽しそうな顔を見るだけで報われた気分になった。だから幽霊であっても彼女には幸せな未来があって欲しいと祈ってしまう。
それを見透かしたように彼は「死後の世界なんてないんですよ」と悲しげにいった。
「まるで見てきたかのように言うんですね」少しだけ私は苛立って言った。その苛立ちは自分の信念を否定された怒りというよりも、何故、彼はそこまで世界を、全てを無いものや幻覚にしたがるのだろう。
それが私にはとても悲しく思えた。余りにも私と考え方が違う。私が求めている理想は言うなれば互が互を助け合い、お互いのために存在する世界だ。それなのに、彼の言う世界はただ自分がそこに存在している。という寂しげなものだった。
それから何度か彼と話していくうちに相反する意見を言う彼に、私は心から惹かれているのだと気づいた。彼がどう思っているかは知らないけれど。
彼からすれば自分という存在がいるから世界というものを認識できる。だから世界は自分の中にある幻想に過ぎないのだと言う。
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