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私はそれに対して三木さんの創った世界ならなんて寂しいんでしょう。毎日人が人を殺したり、飢えてしまったり。もう少し平和な世界にできないのですか? と答える。
いつの間にか私たちは首を吊った女の幽霊がいなくなっても桜の木の下で約束をするでもなく落ち合っては似たような話をするようになっていた。
ある日、私は思いながら口に出していないことをついポロっと言ってしまった。
「どうしたら、三木さんを助けられるのでしょう。全てが幻想なんてあまりに悲しいことなのに」
そう言うと彼は苦笑いを浮かべて「理解してもらえるとは思っていません。しかし、やはり世界は自分が作り出した幻想なのです」と言った。
「それなら私が貴方を好きなのも、貴方がここになんらかの感情できているのも幻想なのですか?」
そう言うと彼は押し黙り苦笑いを浮かべる。突然、告白のようなことを言ってしまった私も思わず黙って赤面してしまう。
「もし、もしですよ」
そう彼は念を押すように私に言った。私は頷いて彼の次の言葉を待つ。
「私が人殺しで、まだ捕まっていないとしても貴方は助けてくれますか?」
それは突然の告白だった。冗談だろうか。そう思って彼の顔を見たが、嘘をついているようには見えなかった。私は彼が殺人を犯したのだとしたら償ってほしい。ただ、そう思った。それ以外には何も思うことはなかった。
「助けます。でも、その前に罪は償ってもらいたいです。殺してしまった人は幻想ではないのでしょう」
「はい。そこで首を吊っていた女性ですから。幻想ではないですね。でも、罪を償うにしても償えないのです」
「何が遭ったんですか」
「彼女は私をストーキングしていたのですが、ある日、私が彼女の両親に告発したところ、こうなってしまいました」
それなら、貴方は殺人犯ではないのではないか。私はそう思った。方便でもなんでもなく彼はただストーカーを辞めさせるようにいったのだから。少し悲しげな彼を見ながら私は勇気を振り絞って彼の手をとった。
「三木さんにはまだ女性の幽霊は見えているのですか?」
「いいえ。もう見えていません」
「それなら、きっと罪はもう償われています。だから、自分を追い込むように全てが幻なんて言わないでください」
私がそう言うと彼はなんとも言えない表情で私のことをじっとみつめた――。
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