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私には彼氏がいるのですが、彼は北海道出身の、いわゆる”道民(どうみん)”でした。
道民って言っても、あまり田舎感が無くって方言とかも無かったので、全然苦ではありませんでした。
彼は明るくって、優しくて、力持ちな頼れる人。始めは彼からのアプローチに押し切られて付き合うことになってしまったのですが、今では私の方が彼のことが大好きなのです。なんて、ちょっとデレすぎでしょうか。
そんなこんなで、私と彼の関係は順調でした。ですが、ある日彼の部屋でご飯をご馳走になっていた時のこと。足元に鼻をかんだようなティッシュがあったので、私は、「落ちてるよー」と彼に何気なく言ったのです。すると、彼はこう言ったのです。
「ああ、それ投げといて」
投げる? これを? 私は明らかにゴミであるティッシュを見ました。確かに形は丸いけど……。もしかして、彼のカーブを付けたボケの投球?
「良いの? 本当に投げちゃうよ?」
「え? 良いよ、むしろお願い」
彼はそう言うと、すぐに顔を戻して中華鍋を振るいました。パラパラのお米は、見事に宙を舞って、中華鍋へと帰っていきます。
ふむ。と、私はゴミを見ます。へぇ、投げて良いんだ。私は素直にそれを受け取ると、丸めてあるティッシュを、全力で壁に投げつけました。
「ええいっ!!」
私の声に、彼が思わず振り向きました。その時、私が投げたティッシュは音も立てずに壁に当たり、静かに地面に落ちました。
それを見た瞬間、彼は腹を抱えて笑いました。
「本当に投げたんだ!」
「ええっ!? だって、投げろって言ったじゃん!!」
彼は涙を拭いながら、私に説明した。
「投げろって言うのはな、捨ててくれってことだよ。ゴメンな、よく考えたらコレ、方言だったんだよな」
彼の何気ない言葉に、私は愕然としました。北海道にも、方言ってあったんだ……と。
バリバリの東京人である私は、少しだけ、方言で話せる人を羨ましく思っていました。それと同時に、ちょっと不安だとも。
関西の方言でも大変なのに、津軽なんて難しい方言を話す人と恋人になってしまったら、この先相手のご家族とどう接して行けば良いのでしょう。まるで海外の言葉のようにネイティブに方言など話されたら……大人になってから、英語を必死に覚えた私には恐怖すら感じていました。
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