投げる

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 だからと言ってはなんですが、彼が北海道と聞いて安心していたのに。この先も不可思議な方言を使われたらどうしよう。一瞬にして、私の脳内には不安が駆け巡りました。  私の顔色が余程悪かったのか、彼は一旦火を消して料理を中止すると、落ちていたゴミを拾ってゴミ箱へと入れました。その後、私の顔を不安げに覗きこみます。 「大丈夫?」 「ご、ごめん! 投げるって、捨てるって意味だったんだね。ケッコー衝撃的」  私は苦笑いして必死に誤魔化しました。その様子を見た瞬間、彼はニヤリと笑い、私の頭を撫でました。うん? なんだその顔は。ちょっと含みを感じます。  … … …  料理が完成して、私は彼の美味な料理を堪能していました。彼は運動が出来て、賢くて、料理も出来る良妻賢母ならぬ、良夫賢父(りょうふけんほ)な人。作る料理は全て私のクオリティを超えてきます。 「なぁ、そこにある布巾投げて」 「え?」  私は彼のことを凝視してしまいました。これは、これは一体どっちの意味でしょう? 布巾の方を見てみます。布巾は少し汚れていて、捨ててもおかしくはない感じ。彼が何かをこぼした様子も無いし……捨てろってことかな? 布巾を持ち上げ、ゴミ箱の下へと移動すると、彼はまた笑いだしました。 「ははは! ゴメンゴメン、こっちに投げて渡してってコト」 「もうっ! だったら素直に渡してって言って!!」  ムキになる私を見て、彼はプッと吹きだしました。ああもうヤダ、恥ずかしい。ついため息がこぼれていました。 「……ごめんな。なぁ、それよりさ」  彼は私の下に歩み寄って来ると、背後から私を抱きしめて言いました。 「投げて」 「……え?」  あ、新しい種類の方言? これってどういう意味? 何て言ってるの? 肝心なところで意味が分からない言語に、私が戸惑っていると、彼は笑って私の頭を撫でました。 「嘘ウソ。好きだよ、結婚しよう」  さらりと、呼吸をするかのように自然と彼は言いました。冗談の後からの言葉だったから、本当か嘘か戸惑っていると、彼は更に私をギュッと抱きしめて言いました。 「大好きだよ」  彼の温もりが、声が、告白を事実だと伝えていました。  おかしいな。さっきまで不安ばかりが襲ってきていたのに……私、今ニヤニヤしています。
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