始まりの悲劇

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僕はウッと嗚咽する。叫んでしまいたい衝動に駆られながらも、口元を手で押さえ、両手に力を込め、逃げ出す体勢を作り出した、刹那。 「た~か~な~し~くぅ……ん」 か細いけれど、恐怖を煽られるような声で、親友は、確かに僕の名前を呼んだ。 小鳥遊 優(タカナシ ユウ)。それが僕の名前だ。僕は至って普通の人間で、赤いチェック柄のTシャツと少し濃いめのブルーのデニムパンツに、他人より少しだけ短めの黒髪という、ごくごく普通の服装と髪型をしている。 親友の口から発せられた声に、僕はビクッ!と肩を震わせる。体が凝固してしまったかのような、或いは、時間を止められてしまったかのような、そんな感覚に陥る。
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