誘惑

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あれは何? 結婚式? ウェディングドレスを着ているのは、鈴木さん? 新郎は新婦と向き合っていて顔が見えない。 そうだよな、結婚は男女でするものだ。 諦めが目の前に霞みを掛ける。 「よく見なさいよ」 悪魔に促され、もう一度目を向ければ丁度新郎が振り返る。 ……私? しかも男に見えるが? 耳元で悪魔が囁く。 「ほら、耳を澄ましてよく聞きなさいよ」 細くて鈴のような声が震えている。 「……ホントに私でいいの?タカ」 「お前がいい、明日香」 視線を絡めながらうっとりと答えてる私。 「男になっても美形だねえ、あんた」 悪魔が面白くもない感想を述べているうちに、二人が抱き合い、そこで映像が消えた。 「私ならお望み通りの形で二人を添わせてあげられるよ。 世間一般に認められる夫婦はもちろん、お互い女性のままがよいならそのバージョンでもいいし、彼女が男というのもなかなか……」 グダグダと悪魔が受け入れ前提でごたごたぬかしている。 私はさっきの映像のおかげで、 頭がうまく回らない。 新郎は私の顔をした別人だ。 愛しげに明日香と呼んでいた。 嫉妬が私を焼き始める。 このままでは早晩こんな未来がやって来る。 当たり前でしょ。それが普通。 普通? ……嫌だ。 私ではダメなの? 女の体の私ではダメ? 悪魔が右手を差し出してくる。 「手を取りな。タカコ」 悪魔の手は皺くちゃの鳥ガラの様だ。 嫌悪感で吐きそう。 なのに。 脳に霞みがかかる。 その手を取りたいと、心が騒ぐ。 この手を取れば楽になるのか?これまでの人生がバカバカしくなるくらいスッキリと逝けるのか? 知らず私の右手が悪魔に向かって上がる。 『駄目だよ、お嬢さん』 背中からふわりと私の体を包みこむ優しい腕の気配。 ! 急に頭がクリアになる。 何考えてるんだ、私は。 悪魔が舌打ちし。 「さっきからちょこちょこと。 どこに潜んでいたのかと思ったら、ここかい!」 グルリと私の体を舐めるように見て、怒声。 悪魔の右肘から先が伸びる。 ガリガリの人差し指が私の眼鏡に触れた瞬間、 バチンッ
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