11人が本棚に入れています
本棚に追加
あれは何?
結婚式?
ウェディングドレスを着ているのは、鈴木さん?
新郎は新婦と向き合っていて顔が見えない。
そうだよな、結婚は男女でするものだ。
諦めが目の前に霞みを掛ける。
「よく見なさいよ」
悪魔に促され、もう一度目を向ければ丁度新郎が振り返る。
……私?
しかも男に見えるが?
耳元で悪魔が囁く。
「ほら、耳を澄ましてよく聞きなさいよ」
細くて鈴のような声が震えている。
「……ホントに私でいいの?タカ」
「お前がいい、明日香」
視線を絡めながらうっとりと答えてる私。
「男になっても美形だねえ、あんた」
悪魔が面白くもない感想を述べているうちに、二人が抱き合い、そこで映像が消えた。
「私ならお望み通りの形で二人を添わせてあげられるよ。
世間一般に認められる夫婦はもちろん、お互い女性のままがよいならそのバージョンでもいいし、彼女が男というのもなかなか……」
グダグダと悪魔が受け入れ前提でごたごたぬかしている。
私はさっきの映像のおかげで、 頭がうまく回らない。
新郎は私の顔をした別人だ。
愛しげに明日香と呼んでいた。
嫉妬が私を焼き始める。
このままでは早晩こんな未来がやって来る。
当たり前でしょ。それが普通。
普通?
……嫌だ。
私ではダメなの?
女の体の私ではダメ?
悪魔が右手を差し出してくる。
「手を取りな。タカコ」
悪魔の手は皺くちゃの鳥ガラの様だ。
嫌悪感で吐きそう。
なのに。
脳に霞みがかかる。
その手を取りたいと、心が騒ぐ。
この手を取れば楽になるのか?これまでの人生がバカバカしくなるくらいスッキリと逝けるのか?
知らず私の右手が悪魔に向かって上がる。
『駄目だよ、お嬢さん』
背中からふわりと私の体を包みこむ優しい腕の気配。
!
急に頭がクリアになる。
何考えてるんだ、私は。
悪魔が舌打ちし。
「さっきからちょこちょこと。
どこに潜んでいたのかと思ったら、ここかい!」
グルリと私の体を舐めるように見て、怒声。
悪魔の右肘から先が伸びる。
ガリガリの人差し指が私の眼鏡に触れた瞬間、
バチンッ
最初のコメントを投稿しよう!