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ご覧になっていたのでしょう、とばかりに顔をあげ主の様子を伺う。
主はそのまま背を向け暗闇に向かって歩き出した。
後ろ姿を目で追いながらほっとため息をつく。
手を取れなかったのでハッキリとは解らないが鎖は緩んでいなかったと思う。
彼女の魂が強すぎる。
天使に匹敵するレベルに見えた。
しかし彼女を目にして瞬時に理解した。
彼女の魂には古いものから新しいものまでギリギリと何重にも鎖が巻き付けられていた。
普通の人間なら間違いなく人格崩壊か自殺レベルまでいくくらいのがんじからめだった。
どれだけの執着なのか怖気が走る。
しかも誰の鎖なのか分からないように巧妙に魔力にベールを掛けていた。
今夜の事で少なくともこの下級悪魔には分かってしまったが。
だが思い出すとよだれが出る。あの芳しい香り。結婚式のブーケのような甘い百合の……
ーー明日香自身は二人のやり取りを見ていない。
店の様子を見ようとドアに触れた途端、弾かれた。
結界が施されているようだ。
疑問が涌く。
下級悪魔が入れるのに、自分が入れない?魔力は人間並に押さえているにも関わらず。
有象無象の異形達は何の障害もなく店のドアをすり抜けている。
奴らも明日香を見て人間の女としか感知していない。
(意図的に、か)
自分だけ弾いている。
この上級悪魔を。
神にも近い程の力を持つ術者が結界を張っているとでも言うのか?
有り得ない。
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