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過ぎた愛情が彼女を追い込んでしまっていることは十分解っていた。
それでも自分ではどうすることも出来なかった。
ところが半年ほど前から彼女が少しずつ変わり始めた。
死を見つめ、厭世感に囚われていた彼女の瞳に輝きが戻ってきた。
まだまだ淡いものだったが。
居ても立ってもいられず人間界にやって来たのが三ヶ月前。
焦ったのが先週のランチの時。
うっかり名前を呼んでしまった。
誤って魅了の呪いが掛かってしまったのか?
途端に彼女が反応した。
自分に欲情してくれたのは嬉しかったが、まさか鎖が緩んだのではという不安が明日香を襲った。
鎖の魔力と今の魔力は別物に仕立ててある。
にもかかわらず、反応した。そして今夜この始末。
こめかみを押さえていると、フワリと百合の香りが漂ってきた。
目を向けた先には部下の酔いしれたような顔。
「お前」
「はい、アシタロテさ、」
部下がひいっと音を吐く。
一気に詰め寄った明日香が悪魔の首をギリギリ締め付けていく。
「喰ったな」
「お、おゆる、し、く…」
明日香の体が二回り以上大きくなる。
服は変化し魔王然としたオーラが体を覆う。
部下はつり上げられ足をばたつかせるが、逃げられない。
格が違いすぎる。
「あの香りに惹かれたか。カサブランカの甘い香りに」
下級悪魔の口から淡い光がゆらゆらと零れていく。
光は一旦空に上っていったが緩く纏まり、アシタロテの体を包んだ。
多香子の精気を浴びて、旨そうに体を震わせる。
部下の体が痙攣を起こし、やがてマリオネットの様にぶらんと下がる。
成人男性の体格だった筈なのに赤ずきん姿よりも細く棒のようだ。
「お前には一滴もやらん。いや誰にも」
つまらなそうに手にしていたものを打ち捨てる。
地面にぶつかると元悪魔の干からびた体は粉々に砕け散った。
「あれは私のもの…私の花嫁だ」
そのまま闇に向かって歩き出す。
瞬く間にかき消える。
残ったのは闇のみ。
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