目覚め

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「お待たせ致しました。」 目の前に女子が好みそうなワンプレートランチ。 心の中で舌打ちをする。 こういう女子向きのものが、苦手だ。 仕方ない。 コジャレた内装のカフェだから、丼や定食物が出る訳がない。 「食欲ありません?」 合い向かいに座る鈴木さんが首をかしげながら私の目を覗き込む。 「そんなことないわよ。頂きます」 箸を取り、彼女を見ると、フォークとナイフでハンバーグに取り掛かっている。 鈴木さんが私の下に付いてから三ヶ月くらいか。 千葉支店から緊急で異動してきた。 前任者が突然退職した為だ。理由は分からないまま。 後任の彼女はかなりの美形で経理課に花が増えたと喜ばれている。 昨日は部長が用もないのにやって来て『薔薇と百合の競演だね』とほざいていった。 「また難しい顔してます」 「元々こんなんです」 「どんな顔しても綺麗ですよね、主任。薔薇が咲いたみたい」 また聞きたくもないことを。 「主任は顔の話になると、途端に機嫌悪くなりますよね」 クスクスと笑われる。 顔の話になると?機嫌が? 感情が顔に出てると言いたいのか? これまで聞いたことがない台詞だ、少なくとも私に対しては。 そんなことを言う鈴木さんに興味が沸く。 は? 興味? そんな馬鹿な。 だって私は…… 考えるのは止そう。 飯が不味くなる。 ふと顔を挙げれば、大きな口を開けてハンバーグを頬張る彼女。 思わず笑みが溢れる。 「鈴木さんは美味しそうに食べるわね」 「園田主任の方が美味しそうです」 「?」
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