目覚め

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何で思い出したのか。 あの日から、余計な苦労をすることになった。 笑うこともなく泣くこともない子供。 ましてや怒ることもない。 周囲の大人達は気味悪がり、友達はいなくなり、両親はよそよそしくなった。 別にそれでも良かったのだけど。 将来生計を立てていくとなった時に、これでは不味いなと思った。 そこで模写をすることを思い付いた。 モノマネ。 クラスメートをよく観察すれば表情の模写は可能だった。 後は感情表現が必要なになる絵や文章。 図書室は教室よりも有意義だった。 書いてある表現を丸暗記。 マイナー作家のものを子供がそのまま書いたとしてもばれるもんじゃない。 そうやって過ごした子供時代。 自ずと頭は良くなり、高校はトップクラスの進学校に入学した。 その頃には表情も場面に応じて瞬時に作れるようになった。 それも一種の感情表現だと思う。 ただ。 自発的な感情表出は皆無だった。 唯一救いはあった。 私は顔の造作が良かった。 そのお陰で多少の無愛想は帳消しになった。 お高く止まってるとも言われたが、元より気にならなかった。
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