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彰が一人で食堂に向かうと、三人の先輩らしき(身体が大きかった)男に廊下を塞がれた。なんだろうと見上げると、「ふぅん、こんなのが小松崎君の・・・・・・」と小馬鹿にされたように呟かれた。
中学の頃もこんなことがあったなと、彰は少しだけ懐かしく思った。あの頃は、優一朗の同部屋だというだけで妬まれたものだった。面倒くさいと横を通ろうとしたところをグイッと腕を掴まれた。
彰の呼吸が早まる。
大丈夫だ、大丈夫――と息を吸うと少しだけ治まったものの、強張る身体を宥めるのに必死で男達の声は良く聞こえなかった。ただ、何か文句を言われているのだろうということだけはわかった。
「離せ――!」
彰の顔色の悪さは、自分たちが責めているせいだと思っている男たちは、彰の抗いを反抗だと思って激高する。
「生意気だな――」
男の一人が胸元を掴み上げ、彰が抗うために身体を捩じった時、眼鏡が落ちた。
「優一朗、優一朗って――、お前ら気持ち悪いんだよ!」
何故自分が言われのないことで喧嘩を売られているのかわからない彰は、胸元を掴んでいた手に噛みついた。それを止めるための手が頬を叩いたので、彰は無我夢中で暴れた。
「何してる!」
後ろから来た人間の声は二つで、彰を突き飛ばして男達は一目散に逃げていった。
「大丈夫?」
「あれ、彰じゃん。どうする? 雅」
「会長に報告でしょ、彩ちん」
「いや、これは風紀委員長に報告でしょ」
「でも彩ちん、どう考えても会長に報告しないと俺達が制裁されそうじゃない?」
頷く同じ顔の二人が誰だか彰も気付いた。
「金子・・・・・・」
片方は同じクラスの金子彩、ということはもう一人は金子雅で、共に生徒会のメンバーだった。
「大丈夫だよ、ありがと」
落ちた眼鏡を彩が拾って渡すと、彰はそれをかけて、大丈夫だと嘯く。
「大丈夫じゃないよ。頬赤いし」
「大事になるの嫌なんだ」
優一朗と距離をとりたいのに、こんなことがあったと知ったらきっと優一朗は心配して、纏わりつくかもしれない。それを思うと、こんなことは大したこととは思えなかった。
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