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ソファには先程彰を叩いた男が倒れていた。
「何で入れたんだよ、優一朗」
ソファの前にたっていた亘が呆れたように呟く。
「その男は倒れているの?」
怖くて何も聞けなかった中で雅だけが男の顔を覗きながら訊ねた。
「・・・・・・彰に手を出さないように、言い含めていたんだ。優一朗の親衛隊長だったからね」
「もう、させない――」
「ていうか何の話だ――?」
全く話の見えない冬弥が首を捻る。
「彰が殴られた」
酷く辛い顔をして、優一朗が言う。
「えっと・・・・・・会長、何でそれを知っているんですか?」
彩が不思議そうに尋ねる。
「見てたんだよ、俺が」
「でも誰もいなかったはずだけど」
横にあるノートパソコンを操作した亘が、先程の場面を再生する。遠くてあまりよくは見えないが、顔を知っていれば判別がつくくらいの精度はあるようだった。
「見せていいのかよ」
冬弥は見せた亘の真意が知りたいと思った。これは風紀委員長と学園の一部の教師のみが知るものだと冬弥は予測がついたからだ。
「いいんだよ、皆知っていることだろ?」
「建前くらいないのか・・・・・・」
「で、この人何で意識ないの?」
チラリと彰をみた亘は、「あー、それはまぁ・・・・・・うれしくて気絶?」と訳の分からないことを言う。
「優一朗、何があったか教えてくれ」
彰の前で、優一朗は悄然としている。
「言えないなら、こいつに聞く――」
気絶しているとはいえ、嬉しくて気絶しているくらいなら起こせばすぐに起きるだろうと彰は手を伸ばした。
「駄目だ――。こんなやつに触らないで・・・・・・」
優一朗の言葉は、男を虫けらのように言い放つ。
「じゃあ、言えよ。おれに関係あるんだろ」
「関係はない――。親衛隊のことだ。彰には関係ない――」
信じられないものを見るように、彰は目を見開いた。
「なら、いい・・・・・・」
彰の呟きは、聞き取れないほどだった。
「彰?」
彩が心配そうに彰に声を掛けた。それを振り切るように、彰は部屋を飛び出していった。
「彰!」
彩と雅は彰を追って部屋を出て行った。
「優一郎。お前らしくないぞ」
冬弥が見た目は冷静な顔をしている優一朗の手が僅かに震えていることに気付いた。
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