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「優一朗、あれは駄目だろう。彰が怒るのも無理はない」
優一朗の様子が変だと思っても、冬弥は言わずにはいられなかった。セクシャルな意味で冬弥は優一朗のことが気にいっているわけではないから、らしくない優一朗の態度が彰に対して誠実でないと責めるように言ってしまったのだった。
「冬弥さん。余計なことです――」
優一朗の声は冷たく、いつもと変わらないように響いた。顔色も一切変えず、瞳には冬弥の意見など聞いていないという意思を込めている。
そう、冬弥が知る優一朗は本来こういう顔をする男だった。帝王のようだと、優一朗をはじめてみた時、群に漏れず冬弥は思ったのだ。
彰が来るまでは――。
「彰に何があったのかは知らないが、食堂に来る前のことなら大したことじゃないだろう。彰は、別に傷ついてなかったし、彩や雅と楽しそうに来たぞ。今さっきの顔の方が、余程辛そうだった。そこの近藤が何をしたかはわからないが、お前の方が酷いと思うぞ」
「優一朗は、知られたくないんですよ。彰に」
何を――? と冬弥は訊ねることが出来なかった。
「ちょ・・・・・・っ。ん・・・・・・っ」
手を引かれた冬弥は、優一朗の行動に驚いて、動けなかった。
優一朗の唇が触れ・・・・・・、捕らえられた身体を抱きしめられて、それが口付けられているという状況だということに、しばらく気付けなかった。
「あちゃー、優一朗、どうするんだ」
「こういうことですよ、冬弥さん」
優一朗が手を離した瞬間、冬弥はフラリとよろめいて、床に座り込んだ。
「お前・・・・・・、最低だな・・・・・・。どこで覚えてきたんだこんなの・・・・・・」
怒るわけでもなく、照れるわけでもなく、冬弥は呆れたように優一朗を見上げた。
「これであなたも共犯です」
「なるほど、それで嬉しくて気絶か・・・・・・」
近藤が倒れている意味がわかって、冬弥は眩暈がした。近藤は、優一朗が入学してきて直ぐに親衛隊を作ったほどの優一朗の信奉者だった。だからこそ、彰のことが気にいらなくて何かをしたのだろうと冬弥は予想がついた。
「亘、こいつ駄目だろ」
「俺もね止めたんですよ。言うことをきかせるなら、脅迫でも何でも出来るのに・・・・・・」
こいつも真面じゃねーなと冬弥は項垂れた。そして、彩と雅と一緒に彰を追いかけるべきだったと後悔したのだった。
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