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「彰、待って――」
掴まれた手を思わず振り払って、彰はしまったと後悔した。
「彩ちん、怪我・・・・・・」
「こんなの擦り傷だ、気にするな」
手に何かを引っかいてしまった感覚があった彰は、足を止めて振り返ると彩に「ごめん」と謝った。
「いや、気にしなくていい。擦れただけだ」
「こんなの舐めときゃなおる」
雅がそう言い、彩の手首の内側をペロッと舐めた。
「何でお前が舐めるんだよ」
「だって、彩ちん忙しそうだし」
悪びれる様子もない雅に、彩ははぁと溜息をついて彰に向き直った。
「舐めたから治った」
そんなわけがないのに、真面目な顔で彩が言う。
「クスッ、ご、ごめん――」
思わず笑いが漏れて、彰はもう一度謝りながらも、さっきのような堪らない気分は少しだけ晴れたような気がした。
彩が少し顔を赤くしたのは、笑われたせいだろう。
「彰、僕たちはまだ会ったばかりだ。だから信頼は出来ないかもしれないけど、愚痴くらい聞いてやるよ?」
「そうそう、彩ちんが、こんなこと言うの珍しいんだから、親切は受け取っときなよ」
「雅・・・・・・、まるで僕が普段は親切じゃないみたいじゃないか」
「・・・・・・、自覚なかったんだね」
何故か二人の話を聞いていると笑い話を聞いているようだった。笑いが込み上げてくる。あんなに冷たかった心の中が少しだけ温かくなったような気がした。
「ありがと――。ちょっと落ち着いたよ。別におれが怒ることでもないんだ。本当に親衛隊のことは関係がないんだし、優一朗が今、誰と付き合っていたって、おれには・・・・・・」
「付き合うってあの近藤さんと?」
変なものでも食べたような顔をして、整った顔を彩が歪める。
「だと思う・・・・・・」
優一朗の言動からして彰を守れなかったことを悔やんでいるようだった。彰はもう誰ともそういう意味で抱き合うことは出来ないから、優一朗と恋人になることはないのだ。近藤と付き合うことにしたのは、彰を守るためでもあり、近藤のことが好きだからだろうか。
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