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自分の寝室のほうへ戻っていった彰に軽く手を振って、優一朗へとメッセージを送る。
『今帰ってきたよ。大丈夫そうだ』
『怒ってなかったか?』
『怒ってないけど・・・・・・』
『ないけど?』
お前と近藤さんを気にしていたぞと言ってやりたい。きっと優一朗は嬉しくて舞い上がるだろうと亘は思ったが、告げないほうがいいと思ってメッセージには『元気はないかな』と送った。
優一朗から返信はなかった。
彰が優一朗を遠ざけようとしているのは見ていてわかる。今更、友達には戻れないと思っているのだろうか。けれど、それが優一朗を崇拝する人間からは『妬み、嫉み』をかっているのを鈍感な彰はわからないのだろう。どうするべきか、迷いながら亘はパソコンに向かった。
優一朗が送ってきていた資料を読み漁る。
近藤と一緒に彰にちょっかいを出した先輩たちの資料だ。丸裸にされたようなその資料に、亘は今更ながら「怖い・・・・・・」と思わずこぼしてしまうのだった。
あっという間の一週間だった。彰は、迎えに来た桐生の車に乗り、祖父の待つ病院へ行く道すがら色々あった学園のことを思い返した。
「どうだった? 学園は楽しいかい?」
爽やかに笑む桐生はミラー越しに彰と目線を合わせた。
「何だか色々、色々ありました・・・・・・」
「馬には乗ってみた?」
「ええ、毎日授業の前に少しだけ乗せてもらってます」
厩舎を預かっているという丸山さんは、指導者の資格も持っていて、あまりちゃんとした乗り方をしてこなかった彰に丁寧に教えてくれた。冬弥も案外面倒見のいい男だったようで、ブツブツ(聞き取れないが愚痴だろうか)と言いながら彰の周りで馬に乗っている。
何より楽しいのは彩と雅の二人を眺めていることで、彰は二人がとてもよく似た双子だというのに、全く似ているように見えないことだ。双子というものに夢を持っていたのだと彰は気付く。
「楽しそうだね」
「ええ――」
そう、あれからも優一朗は全く何もなかったかのように彰の側にいて、ニコニコと彰を見つめている。馬鹿にされているのだろうかと悩みかけたが、そんなことは無駄だと早々に諦めた。
『優一朗の気持ちを変えようなんて、神様だって無理だ。それを彰が何とか出来ると思っているなら、彰は大馬鹿だ』と亘に言い切られてしまったので、それもそうかと諦めた。
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