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「お祖父さんの具合はどうなんですか?」
祖父にもう高校生なのだから連絡はしなくていいと言われていたので、彰は祖父である一馬の病状がどうなっているのか知らなかった。
「大丈夫。ただの夏バテですからね。病院といってもとても過ごしやすいところだから、安心して欲しい」
入院した先についていくことも祖父に止められたのは、彰の父親がくるかもしれないからだ。もう二週間は立っているから来ないだろうと、彰も来ていいと言ってくれた。
時間は三十分もかからなかった。山一つ越えるだけの場所だし、交通量がほぼないと言っていいほどだ。もう少しすれば、紅葉を求めてやってくる人間もいるだろうけど、今は誰もいない。
「ここだよ――」
駐車場に車を止めて、案内された病院は、彰の知っている病院とは違った。
外国の風景のような白い壁の建物はよくある四角いものではない。無機質とはほど遠い。屋根は青かったり赤かったり。窓に掛けられたプランターからは花が覗いている。外国のアパルトマンみたいだと、彰はよく知らないながらも思った。
「こっちは病院というよりは、静養所みたいな感じだね」
「ここにいるの?」
「お祖父さんは、女の人にモテモテで、彰君ビックリするよ」
元々変人と言われているわりに人当たりのいい一馬は、老若男女問わず人気があった。父はその父と比べられることが嫌で東京に家を建ててからほどんど実家にくることはなかった。
『ほいほい誰ともわからない人間を家に上げる父が大嫌いだった』と父が吐き捨てるように言っていたのを覚えている。
離れた先には、蔦に覆われた大きな建物があって、そちらは最新の技術で医療行為が行われているというから、唯の養老施設のようなものではないのだろう。
建物に入っても、病院特有の匂いはしない。彰は、病院にいい思い出がなかったので、正直有難かった。
「あれ? 部屋にいないな」
二階の端の部屋を覗いても人の気配はなかった。
「居心地良さそうな部屋ですね」
洋式の建物のようなのに、部屋は和式だった。玄関で靴を脱ぐようになっていて、畳の部屋の真ん中にローテーブルがある。そのうえにはせんべいの入った籠がある。
「気にいってると言っていたよ」
部屋には障子があって、向こうにも部屋があるようだった。寝室だろうか。
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