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「レンさん、ついていけてませんよね、おれ」
馬の動きが良すぎて彰は自分が邪魔をしているように感じていた。
「少し彰君は硬いね。背中をもう少し使えたらいいんだが。ストレッチはしてる?」
「はい。一応・・・・・・」
「お風呂の後にしっかりやると違うよ。おしゃべりしながらでも英単語覚えながらでもい
いから、呼吸だけはしっかりとしてね」
「レンさん、お喋りしてたら呼吸を意識できませんけど」
「あはは、だよね。背中と股関節辺りをしっかりと緩めてあげて。本当は誰かに手伝って
もらえるといいんだけどね。スポーツトレーナーとかこの学校いたっけ?」
練習に熱が入っているレンは、彰が人に触られるのが嫌だということを忘れているよう
だった。
「丸山さん、今日はこれくらいでいいですか? 彰、お祖父さんの病院に行くので」
「ああ、そうだったね。モルゲンロートは私がもう少し乗せてもらうから、預かるね」
「ありがとうございました」
レンは彰から手綱をもらい、跳び乗ると二人に手を振った。
「またね。お祖父さんによろしく」
颯爽とモルゲンロートを操るレンの騎乗姿に彰は思わず見惚れてしまう。馬が自分から
動いているように見えるが、彰にはそんな風に乗ることは出来ないからだ。
「彰、桐生さんが来ちゃうよ」
彰が病院に行くとき、二回に一回は優一朗も一緒についていく。本当は毎回ついていき
たいけれど、二人の時間を邪魔しているのはわかっているから、我慢している。
桐生が車をまわしてくれているけれど、彰が気を使ってバスで行くといっても、優一朗
が自分の車を出すといっても(学園には、小松崎の専用車も運転手もいて、時折優一朗は
でかけている)「仕事なんですよ、気にしないで」とやんわりとしているのに、そこには
断固とした意思があるように優一朗は感じた。
「桐生さんてさ、弁護士だけど、親戚とか?」
優一朗は、亘に頼んで桐生について調べさせたが、依頼人と弁護士という関係以外にそ
れらしきものはなかった。けれど、優一朗の勘がそれだけではないと告げる。
勿論親戚であるはずもない。
「親戚じゃないよ。でもお祖父さんとは昔から知り合いみたいだな」
「昔からって?」
「おれが学園から戻って・・・・・・、引きこもってた時は、もういたな・・・・・・」
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