学園生活

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学園生活

「――ッ!」  ザッと冷や汗が身体を覆い、彰は目が醒めた。真っ暗な部屋の中に人の気配はなかった。 「夢か・・・・・・」  呟いた言葉がやけに白々しく感じて、彰は身体を起こした。もう二年も前のことなのに、時折悪夢が襲ってきて彰の睡眠を邪魔していた。 「寒いな・・・・・・」  冷や汗は、身体を冷やすためになのか一瞬で凍えるほどの寒さを感じさせた。それは脳の誤作動なのか、果たして汗自体が冷たいからこれほど冷えるのかわからない。着替える前にシャワーでも浴びようと部屋を出る。  家自体はそれほど大きくはないが、この辺り一帯は全て彰の祖父の土地だった。  中学二年の時に教師という護られるべき大人に身体を無理やり奪われた彰は、父親の体裁を護るために一度も学園に戻ることは許されなかった。  最初外国の寄宿学校に転入することになりそうだった彰は、唯一の味方といっていい祖父によって引き取られた。心のケアも兼ねて復帰するのには時間がかかったが、田舎の中学はのんびりしていて、特に問題なく学校生活には戻れた。今は車で一時間もかかる高校に通っている。何分田舎なので、仕方がなかった。  屋敷は二人で住むには広すぎたが、少し変わっていると言われる祖父は二人の生活を楽しんでいるようだった。屋敷の全ての家事は側にすむ昔から家に仕えていたという人達が通いでこなしてくれていた。 「あったかい・・・・・・」  ザーとかかるシャワーの温水に、ホッと身体の緊張が止む。  今日悪夢を見たのは、不安感からだろう。夏の暑さが堪えた祖父が体調不良で入院したからだ。だから今屋敷には一人だった。 「優一朗・・・・・・」  その名前は、彰にとっては魔法の言葉だった。不安な時は、優一朗の笑顔を思い出せば、苦しくなる呼吸は確かに和らぐのだ。  会いたかった。もう、自分のことは忘れてしまっただろう。あれだけ人気者の彼のことだ、高校生になったら彼女の一ダースだっていてもおかしくない。  そう思って、笑いが漏れた。 「優一朗はそんな軽薄じゃないか・・・・・・」  きっと一人の女の子に愛情を注ぎ、大事に大事にしているだろう。そう思っても焦燥感も何もない。自分はやはり、優一朗のことは大事だけど、そういう意味での愛情ではなかったのだろうと思う。
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