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歌い終わると客席からは大きな歓声と拍手、指笛が響いた。
カイは途中で予定になかったコーラスを入れてくれた。
カイと一緒に歌えた…
涙でいっぱいになった瞳でカイの方を振り返ると…もうそこにはカイはいなかった。
優しく微笑むジョーさんが私のアルバムがもうすぐ発売される事を告知してくれている。
革ジャン達はいつまでも私に歓声と拍手を送ってくれた。
客席に一礼してステージから下がる。
「カイ…」
ステージ裏、楽屋のどこを探してもカイの姿は見つからない…
カイ…どこなの?
涙を拭いながらカイを探す。
「カイ…意地悪しないで…」
ライブが終わってステージから下がって来たメンバーの話し声が聞こえた。
「ジョー、リカの曲…カイみたいだったな。」
「俺もそう思った。カイが乗り移ったかと思った…」
「…悪い…俺、リカの曲記憶ねーわ。」
「マジかよ!じゃやっぱり?」
カイだよ。
一緒に…歌ってくれたのはカイだよ。
客席に出て行くとほとんどの客がフロアから外に出て行った後だった。
フロアの端にツバが赤の黒い野球帽が落ちている。
それを拾い上げると声をかけられた。
「リカーっ!感動したーっ!」
抱きつく渚。
「うん、凄く良かった!泣きそうになったよ!」
郁子が頭をポンポンとしてくれた。
エイジが満面の笑みで頷いている。
「あれ…その帽子…」
「うん、ここに落ちてた。」
「それ…カイさんの…」
エイジが野球帽を裏返す。
真っ赤なツバの裏にはカイのサイン…
「これ、cBaのライブの時にカイさんが客席に向かって投げたんだ…、んで返しに来た客にサインしたら、あげるって言って渡したんだ…」
「カイの…」
「カイはいつでもここにいるって、伝えたかったんじゃねーの?」
振り返るとcBaのメンバーがいる。
「ジョーさん…」
「お前の曲の時、俺の身体乗っ取られたからな…」
「マジっすか…やっぱ、MCとかカイさんっぽいって思ったんすよ…」
エイジが野球帽を見つめた。
ジョーさんがエイジの手から野球帽を奪うと私の頭にかぶせた。
「良かったな、リカ。」
また涙がぶわりと浮かんで視界が歪む。
『俺はいつでもお前のそばにいる…』
そうはっきりと聞こえた。
振り返るとステージのマイクだけにスポットライトが当たっている。
マイクを照らすスポットライトが反射してまるで虹のように見えた。
カイ…私にも虹が見えたよ…
……the end……
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