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男女の話し声がする。張り詰めた空気は痴話喧嘩中?いや別れ話してるわ。あれは遠い日の宏海と麻衣子やわ。
心痛伝わる宏海の表情に、何かを察した麻衣子。
「麻衣子。俺たち別れたよな?」
「まだ別れてへん。一方的に言いたいこと言うて切ったん宏海やんか。」
「これ以上麻衣子と付き合うつもりはないねん。」
「急に冷たくなったん、どうして?」
「俺の先輩とセフレなんやろ?ホンマ驚いたわ。責めるつもりも縛るつもりもナイねん。
俺もその他大勢のアッシーくんから麻衣子の彼氏に昇格できた1人やから、他の奴らの気持ちもわかるし。
ショックやけど、麻衣子に対しての気持ちが冷めたんや。ホンマごめん。」
「宏海は私やなくて先輩を信じるの?」
「惚れたオンナができた。だから別れてくれ。お願いだ。」
カラダを折るよう90度に頭を垂れる宏海。
「……わかったわよ。」
麻衣子は突き飛ばすように宏海を押し退けていった。
宏海の親友と付き合い再会した時には、傷心から立ち直ったと思ってた。
しかし1年後、この世を去った宏海の遺影を見ていた麻衣子は、初めて本気で好きになった人を見返すという願望がなくなり、虚無感に苛まれていったのだ。
◇◇◇
麻衣子の閉ざされた心の闇とは、自分から好きになった人とは結ばれない悲しみやった。
「東京で就活して地元を離れたのよ。姉が離婚して地元に戻ったから一度会いたいって言われて帰省した矢先だったの。
ねぇ有羽ちゃん。ここには誰もいないの。何もないの。山も海も街も空ですらナイの。ココから出たいのよ。」
「初めは水の都におったんやろ?」
「ええ。尸使いの墓で迷ってたら拾われたの。魔法使いのお婆さんみたいな風体で、正直うんざりしてたの。衣食住を提供してくれたし甘えてた。
【時がきた】と呟いて死んでいったわ。だから弟子に任せて逃げたの。」
「弟子?」
脳裏にふわふわのウサギの耳が揺れた。
そうか。弓では限界を感じたイズミは尸使いに弟子入りしたんやな、きっと…
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