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「ユウコ。この世界に来た時、俺は以前の黒犬のままだった。」
◇◇◇
バベルの嗅覚は犬の中でも秀でてたという。今いる高層ビルの存在を察知して、息を切らして走り続けて辿り着いた。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
荒い呼吸をして、必死に水を求めてた。
ふと水の匂いを感じ、本能のままに近付いていく。魅惑的な水の匂いは井戸だったが、四足の獣では井戸の水を汲んで飲めない。
「バベル?」
途方に暮れたバベルに話しかけたのは誰だろうか?名を知る者ならば決して怪しい者ではないと考え、ただ水を欲しがった。
「水が飲みたい。」
「ふーん。バベルがここに来たのは水が欲しいから?」
「違う!ユウコの身に何かが起こるって直感でわかったから来たんだ。」
「ユウコとは愛しき者?」
「いや。俺の恩人で家族だ。」
声がする方向から光が産まれた。
「へえぇ。力を貸そうか?」
音もなく姿を現したのは、、、
ちっさ!!
全長10センチほどの黒づくめ。ってか作業服みたいなツナギの服を着てた。髪色すら帽子を被っててわからない。
妖精?小人?ちっさいオジサン?
鼻先でヒラヒラ揺れてくすぐったい。でも、それどころじゃない。
「み、水…」
目が霞んできた俺の前に水たまりがあった。
ごくごく、ごくごく。
喉の渇きに耐えられず、夢中で飲んでいた。この水が容姿を変化させる秘薬とも知らずに………
水分補給して、ホッとした瞬間、激痛が全身を駆けた。
「つぅ!い、痛っ!!」
地面にカラダをこすりつけるよう、ぐるぐる回りながら、呻き声を上げた。
「な、お前っ、み、み水に、」
言葉が途切れてしまう。ヒラヒラ揺れる小さな存在を、ぎろり睨んでしまう。
「いい目をしてる。助かりたいか?」
喘ぎながらも必死で頷くバベルに、満足そうな微笑みを浮かべた小さき者。
いや、小さくない。
存在が大きいからこそ、姿は小さく見せているだけだと、バベルは感覚で悟った。
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