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バベルは激痛の中で、薄く目を開け焦点を合わせる。
「ほほう。苦しいだろうに我を見ようとするのか。」
絶対的な力。
抽象的な姿。
何かの化身なのか?
「そうだ。此の地は宵闇の彼方。境界線を守護する者。彼の地に有羽子が来たのは必然だが、お前はそうじゃない。」
此の地?
彼の地?
俺らが住んでいた場所とは異なるのか?
「ククク…己に降りかかる危険を顧みず渦中に飛び込んだ行動力。死なせるには惜しいのう?」
!!!
ぐったりするカラダ。目を開けていられず手放してしまいそうな意識を繋ぎながら最期だと覚った。
「勇敢なバベルに選択肢を与えよう。ユウコの元に行けるが容姿が変わるか、ユウコに会えぬが元の世界に還るか。」
会いたい。
もう一度、ユウコに会いたい。
「選択は為された。次に目を覚ます時は容姿はヒトガタに変わっている。ユウコに会えるかどうかはお前次第だ。」
ダメだ。
引きずりこまれる。必死に聞こうとするが、途切れてゆく意識……
【我の名はバロン。具現化するのはバベルの危機の時。信念に導かれ往け。】
◇◇◇
「次に目を覚ました時には淳史の私有地だった。ユウコと会えなくてもユウコの存在は風に混じる匂いでわかった。だが。」
もうバベルは震えていない。握り返した手は、あたたかくて力強い。
「バロン。白猫の姿をしているのはナゼだ?」
【ククク…判らぬか?境界線を渡る前に命を落とした者の最期の願い。バベルの側に居たいとすがる白猫の意を叶えた。我の姿が白猫なのは白猫の望みだ。】
スッとひざまづくバベル。
「白猫の望みか。獣人族の姿でユウコと再会できた。バロンありがとう。
バロンはここから出たいのか?」
バロンは驚愕の表情でバベルを見ていた。
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