168人が本棚に入れています
本棚に追加
シエロを探すと、持ち帰り用に包んだ盆を手に近付いてきた。思考回路がぐるぐるしてる私を察して、部屋に戻ろうと促した。
「冷めないうちに食べろよ。」
「うん。」
シエロのさりげない気遣いが嬉しい。無言で食べてもお喋りしながら食べても気疲れしない。
食べ終わると、自分のことを話し始めた。
「シエロ。私な?既婚者やったけど、夫と添い遂げた年月は短いねん。大学ん時に知り合って、大学卒業前に妊娠が発覚してん。就職活動中だった彼は、不慮の事故に巻き込まれてしもて、子ども達の顔を見ず亡くなったんや。
その時から女としてではなく母として生きてきた。必死に義父母と子ども達を育ててきた。
恋愛なんて二の次やってん。錆び付いた女やで。恋愛感情なんて、夫が亡くなった時に消滅したと思ってたわ。
こんな私でええの?今ならまだパートナー解消出来るんとちゃう?」
シエロの銀色の瞳は強い。
「パートナー解消はどちらかに死が訪れた時だ。ユウコは45だと言うが、俺の年齢を知っているのか?」
黙って首を横に振った。
「この世界が存在する時には千の年を越えていた。俺たちには時間の流れは無関係だ。ただ存在する。幾度と見てきた人族の生死。輪廻転生を繰り返す生物で実に興味深い。」
想像を絶する長い永い孤独な時間。どんなに辛かったやろう?どんなに寂しかったやろう?
きっと私には理解できへんやろう。亡くなった夫にすがりたかった時の空虚な感じ。ぽっかりと穴があいたあの虚脱感……
「シエロ…。」
哀しみが宿る瞳はもう見たくない。首にすがるように抱き寄せた。
最初のコメントを投稿しよう!