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ドデンッ!!
「痛っ。イタタタタ。」
お笑いのズッコケみたいに派手に転んだ。
身体中が痛い。だってアラフォーの私には久々の全力疾走だったんよ?子ども達の運動会での親子リレー以来なんやから。
足を止めてしまった私を、舐めるように見る恐竜もどきの視線は、己より下の者を弄ぶ強者そのもの。
まるで遊園地のアトラクション前に置かれたレプリカに見えたけど、レプリカが決してこんな表情なんてしない。
この時、人生の走馬灯が流れた。
~最期は堂々と私らしく~
覚悟を決めて、銀色の獰猛な瞳を睨み返した。
視線を逸らさないで見つめたまま、地面を這うようなポーズから、ゆっくりと立ち上がった。
「愛する夫に先立たれ、子ども達は成人式を迎えたばかりの私は、いつ死んでもいいという気持ちで、精一杯生きてきてん。唯一の心残りは孫を見られへんことくらいやわ。
そんな私の命、タダで奪えるとは思ってないわな?」
まち針みたいな剣を構えた。
アカン。やっぱギャグやわ。剣先がシャボン玉みたいな透明な珠やねん。めちゃめちゃ厳しいけど瞳を狙うしか思いつかへん。
「いい目をしている。」
「げっ。喋れるんや。」
「ふん。下等生物と同類に見ないでくれ。」
「結果は同じやん。私をいたぶってから食べるんやろ?」
「そう思うのか。」
「当たり前やん。食べへんのやったら、なんで追いかけて来たん?」
「………。」
何とも言えない沈黙が焦れったい。
「その宝玉が欲しいだけだ。」
えっ、このチャッチイの?まち針みたいだと侮っていた。かなりバカにしていた。
見据えた銀色の瞳は真剣な眼差し。先程の獰猛さは消え失せていた。至近距離でみた恐竜もどきの体躯は、空色に虹色の鱗が絢爛に光輝いている。
キレイやわ。
ほんまにコレが欲しいのが伝わってくる。きっと悪い結果にならへん。
「はい、どうぞ。」
「………。」
再び沈黙が訪れた。
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