可愛いエリスちゃん

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 茶色くフワフワの毛並みを一つにくくったその様は、まるで女神のよう。元気で優しく可愛らしい彼女を、俺はずっと見つめていた。あ、ちょっとポニーテールが動いた。可愛い。  学園では、生徒会長の皆星が注目の的だが、彼女だってとても可憐で素敵な女性なのだ。彼女とは誰かって? バカな、彼女を知らなくてこの学園の生徒と言えるのか!? 彼女と言うのは、彼女と言うのは、多部(たぶ)エリスちゃんに決まっているだろうがっ!!!  通称エリスちゃんは、毎朝俺の荒んだ心に希望の光と幸せの花畑を与えてくれるアイドルだ。ゴスロリ着せたら一位。体操着着せたら一位。制服を着せても一位。ジャージでも着ぐるみでも、何でも彼女が着ればお似合いだし、ぬいぐるみなんて持ってみたらぶっちぎりで一位なのだ。  彼女は明るく元気が良く、生徒の一人に過ぎない俺にも優しく声をかけてくれた。  それは、一カ月と二日前のこと。俺がつまずいて転んだ時。 「だ、だいじょうぶですか!? ああっ、いったそー」  彼女はそう言って近付き、俺と目が合うと優しく微笑んでくれた。それだけでも俺はときめいていたと言うのに、エリスちゃんは革のカバンから小さなケースを取り出すと、そこから絆創膏を一枚差し出してくれたのだ。 「はい、どうぞっ」  彼女の笑顔に、俺のハートは瞬時に射抜かれた。  それからと言うものの、俺は人の目を盗んではエリスちゃんを見つめ、学校をサボって屋上で寝てはエリスちゃんを見つめ、うざったい先公に叱られる途中でもエリスちゃんを見つめ、他の学園の生徒と睨み合っている途中でも、抜け出してはエリスちゃんを見つめていた。 「……おい、掃除の手が止まってるぞ」  同じクラスで、生徒会長をしている皆星が俺に言った。誰もが俺に怯える中、堂々と俺にものを言えるのはコイツくらいなものだ。 「ああ? 悪かったな」 「それはそうと君、最近何か変だぞ?」 「ん、んなわけねーだろ!!」 「……そうだな。君の悪い部分を助長するような言い方をしてしまったかもしれない。いい加減、その薄い眉毛と、腰まで下げたズボンを何とかしてほしいものだ」 「るっせーな、俺の勝手だろ!?」
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