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「兄者、あれをその素晴らしい腕で捕らえてはくれぬか?」
下から窺う弟に兄は応える。
「良いだろう。だが少し遠い。弟よ、その素晴らしい脚で追い掛けてはくれぬか」
何時もと変わらぬ会話を繰り返し、二体の面妖なる存在は旅人を恐るべき速さで追い掛け、力強い腕で捕らえる。
奪われるのは荷ばかりではない。ただ一つの命さえ無惨に奪われるのだ。
見付けられれば、逃れる術は無く。
情に訴えようとも、彼等から人の心はとうに失われている。
人に姿を見せれば奇異の目を向けられ、近寄ろうとすれば獣を見る目で恐れ下げずまれた。
彼等の心など考えず、人々は己の心のみを喚き散らす。
「人なものか」
「化け物」
「来るなっ、来るなっ、寄るなあっ」
度を失って吐き出される理性なき言葉は兄弟の心を鋭く抉った。
「待ってくれんか、わしらは……」
触れ合いたくとも多くの人は彼等を拒絶する。
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