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その不安を抱いているのは芳樹も同じらしく、まだデータの取れていないカエルを心配そうに見つめていた。それは今朝、幸運にも通学路で発見したカエルだ。水槽がない時のためにと持ち歩いている瓶の中に納められている。
「一体どういう先生なんですか?」
恐る恐る楓翔が訊いた。あの資料の山からして普通の先生ではないと解るものの、今まで最強最悪だと思っていた三年生たちが揃いも揃って不安そうなのだ。これはもう予備知識なしに会うことは無理だった。
「どう?何とも形容しがたい天パの持ち主だ」
亜塔が首を捻って出した回答はどこかずれている。それでは髪形の情報しかない。しかも形容しがたいとはどういう状態だろう。
「まあ、化学の先生としては優秀だったよ。化学の先生としてはね」
芳樹がカエルの入った瓶を握り締めて強調する。それは化学の先生として以外は認めたくないと言外に言っているようなものだ。
しかしこれで余計に二年生たちは戦々恐々とするしかない。
「ハロー。科学部諸氏。いやあ、懐かしい」
そこに馬鹿でかい声とともにドアを派手に開ける人物がいた。全員が振り向くと確かに形容しがたい天然パーマの男性がいる。何だかもさもさしていて奔放な髪形だ。しかも黒縁丸眼鏡でリュックサックを背負い、どこからどう見てもオタクというファッションをしている。はっきり言って関わりたくない。
「は、林田先生。たしか来れるのは昼過ぎだと」
ショックから真っ先に立ち直ったのは莉音だ。電話しただけあって少し免疫がある。そして時計を確認するとまだ10時半という、しっかり午前中という時間だった。
「そのつもりだったんだけどね。君たちが俺の助けを求めているというのに、のんびり触媒なんて作ってられないよ。丁度朝早くにやって来た大学院生がいたから、作業が頼めたしね」
林田はそこでかかと笑う。もう変人キャラ炸裂だ。どこをどう突っ込めばいいのかさえ解らない。ともかく出会ってしまった大学院生にご愁傷さまと言うべきか。三年生ですら恐怖するはずだ。
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