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「まあ、早めに来ていただけたのは有り難いです。さすがに受験生としては徹夜は無理なので。それよりも先生。自己紹介なしに大声を出すから二年生が怖がってますよ」
芳樹はカエルを背中の後ろに隠しつつ、話題を二年生に振った。しかし桜太をはじめとしてこっちに振るなと誰もが首を振る。だが、そんな信号を無視して林田は振り向くと二年生たちを視界にロックオンした。
「おおっ。君たちが俺の知らない次世代の科学部か。いやあ、会えて嬉しい」
林田は二年生たちに颯爽と近づくと、手近にいた迅を抱きしめた。
「うぎっ」
抱きしめられた迅は意味不明な唸り声を上げる。すでに林田拒否症状が出ているらしい。さらには強い腕力で呼吸困難に陥っていた。みるみる顔色が悪くなる。
「さらには女の子まで入っているではないか。代々男臭かったというのに僥倖だ。しかもそのルックス。どうかな?科学を愛しながらアイドルを目指してみないか?」
林田は迅を解放すると今度は千晴に握手を求めた。解放された迅はげほげほと盛大に咽ている。
「結構です。私は化学だけを愛します」
千晴は笑顔で握手に応じつつも、強くアイドルは拒否した。それはそうだ。この林田にプロデュースされるとなると、ファンも自ずと林田の仲間たちになる。そんな連中に囲まれて生活するくらいならば、化学物質に囲まれて生きる道を選ぶ。しかもあの新聞の切り抜きは本当に林田の持ち物だったのだ。忘れて帰るとはファンとしてどうなんだ。
「それは勿体ない。実に勿体ないぞ。この握手の出来といい笑顔の可愛さ。まさに神対応だ。間違いなく売れるよ。そんなに科学がいいならば理学部でグループを作るっていうのはどうだ?」
諦めない林田は勝手に千晴の進学先を自分の大学にしようとしている。これは最凶の変人だ。
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