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これは記憶喪失じゃない。単に頭がおかしくなっただけだ。身元を調べるよりもまず病院に連れて行くべきじゃないのか。と思っていた僕の目の前で、唐突に老人が立ち上がった。
何事かと見上げる僕に、
「また来る」
と言い残して派出所を出て行こうとする。
「ちょっとちょっと、待ちなさい」
慌てて引きとめる僕を振りほどきながら、彼は意味のわからないことを口走りはじめた。
「離してくれ。私は行かなければならない。将来この世界の救世主となるべき少年を守らなければならないんだ」
老人とは言え彼の体格は僕よりも大きい。必死に縋りつくけどずるずると引きずられていく。本当にロボットなのではと思えてきた。
そのうちに彼は入り口の扉に手をかけた。それを開き、まさに外に出ようとした瞬間、同僚の声が飛んできた。
「わかったぞ。その人アーノルド……」
それをかき消すほど凄みのある声で老人が言った。
「地獄で会おうぜ、ベイビー」
あまりの迫力に僕は思わず手を離してしまった。
老人は夕陽に向かって颯爽と歩き始めた。振り向きもせず、彼は高々と右手の親指を立てて見せた。
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